AI分野においてエヌビディア(NVDA)の独占的な地位に挑む米国企業「テンストレント」が、韓国の投資ファンドAFWパートナーズとサムスン証券主導の資金調達ラウンドで新たな資金を獲得しました。創業者で半導体設計のパイオニアであるジム・ケラー氏によれば、このラウンドにはLGエレクトロニクス、フィデリティ、さらにジェフ・ベゾス氏の「Bezos Expeditions」も参加しており、AI技術の急成長に期待が寄せられています。
テンストレントの戦略:オープンソースとコスト効率で差別化
ケラー氏は、「エヌビディアのHBM(高帯域幅メモリ)を使う限り、コスト競争では勝てない」と述べ、エヌビディアの優位性に対抗するには、HBMに依存しない新たな方法が必要だと説明しています。エヌビディアは専有技術を全面に押し出し、チップからデータセンターの設計に至るまで一貫した統合ソリューションを提供しています。一方で、テンストレントやアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)のような企業は、業界標準を採用したり設計をオープン化することで、他社との相互運用性を高める戦略を取っています。
特にテンストレントは、オープンスタンダードであるRISC-Vアーキテクチャを採用。このアプローチにより、アーム・ホールディングス(ARM)のような競合企業に挑戦する構えです。ケラー氏は過去にアップル、テスラ、AMDでのシリコン設計に携わった経験を持ち、「オープンソースの採用はエンジニアを引き付け、より大きなプラットフォームを構築する助けになる」とコメントしています。
資金調達の背景と用途:グローバルな成長と技術開発を加速
テンストレントは今回の資金を活用して、エンジニアリングチームの拡充、グローバルなサプライチェーンへの投資、そしてAIトレーニング用サーバーの構築を進める予定です。現在、同社の契約総額は1億5,000万ドルに達しますが、これはエヌビディアのデータセンター事業における四半期売上(数十億ドル)に比べるとまだ小規模です。それでも、「コスト効率とオープンソース技術」を武器に、エヌビディアのシェアを徐々に侵食していく計画です。
特に韓国企業との協業で好評を得ていることが、AFWパートナーズの投資を引き寄せた重要な要因となりました。また、他の投資家としては、カナダ輸出開発公社(EDC)、Healthcare of Ontario Pension Plan、ヒュンダイ自動車、ベイリー・ギフォードなどが名を連ねています。
技術開発と今後の計画:次世代AIプロセッサの開発
テンストレントの最初のチップはグローバルファウンドリーズで製造され、次世代モデルは台湾のTSMCとサムスン電子が担当します。同社は、2ナノメートルプロセスの最先端設計に着手しており、TSMCとサムスンが2024年に量産を開始する予定のほか、日本のRapidusとも協議を進めています。Rapidusは2027年の2nmプロセス製造を目指しています。
また、テンストレントは2年ごとの新プロセッサのリリースを計画しており、1年ごとにAIチップを刷新するエヌビディアとは異なるアプローチを取っています。
今後の展望
テンストレントは、AI市場におけるエヌビディアの支配的な地位に変化をもたらす可能性を秘めています。コスト効率に優れたオープンソース技術の活用は、特に中小企業やスタートアップにとって大きな魅力となりそうです。AI分野における革新と競争がさらに加速する中、テンストレントの動向に注目が集まっています。