ChatGPTの登場による人工知能(AI)ブームは、これまで「より大きなAIモデルがより優れている」というルールに基づいて進んできました。この原則に基づき、マイクロソフト(MSFT)、アルファベット(GOOGL)、アマゾン・ドット ・コム(AMZN)、メタ・プラットフォームズ(META)などの企業は、エヌビディア(NVDA)をはじめとするチップ企業から技術を調達するための激しい競争を繰り広げています。しかし、現在このルールに対して疑問が呈され、業界の競争構造が変化しようとしています。
エヌビディアの優位性とスケーリング法則への挑戦
エヌビディアのグラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)は、AIモデルのトレーニング時間を大幅に短縮する能力を持ち、これまでAI開発の中心に位置してきました。AIモデルの性能は、パラメータ数という指標で測られ、大規模なモデルほど多くのGPUを必要とします。しかし、新興企業のWriterのCTO、ワセム・アルシーク氏は、「1兆パラメータを超える規模では、大きな改善は見込めない」と指摘しています。この指摘は、これまでのスケーリング法則への挑戦ともいえるものです。
一方で、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、「こうした議論はイノベーションを促進する動機となる」と述べ、この流れを前向きに捉えています。
トレーニングデータの限界とモデルの進化
AI開発における課題の一つとして、適切なトレーニングデータの不足が挙げられています。AIモデルのマーケットプレイスであるHugging Faceのトーマス・ウルフ氏によれば、「インターネット上の高品質なテキスト、コード、画像は既に使い尽くされている」とのことです。このため、より小規模で特化したモデルが、企業や個人のデータを活用する形で進化する可能性があります。
メタ・プラットフォームズのヤン・ルカン氏も、大規模モデルを支えるチップの増強だけでは限界があると指摘しており、記憶力や推論能力を備えた新しいモデルの開発が必要であるとしています。
推論への移行と新たな競争
AI開発の重点がトレーニングから推論へとシフトしつつあります。推論とは、モデルを使用して答えや結果を生成するプロセスを指します。この変化により、エヌビディアの優位性に挑戦する新たな機会が生まれる可能性があります。推論のプロセスでは、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)やインテル(INTC)、さらにはアマゾン・ドット・コムが開発するカスタムチップなど、他社製品が競争力を発揮する場面も増えると考えられます。
エヌビディアはこの変化を認識しており、最新の決算報告書では、推論がデータセンター売上の約40%を占めていると述べています。また、新製品「NVL72」は、従来のシステムと比較してトレーニングでは4倍、推論では最大30倍の性能向上を実現すると発表されています。
今後のAI市場の展望
生成AI競争は、これまでより大規模なモデルを支えるためのチップ調達競争として展開してきました。しかし、AIの活用が推論段階に移行することで、これまでの競争構造が変化し、新たなリーダー企業が台頭する可能性があります。投資家は、AIのスケーリング法則や技術革新の方向性に注目し、変化する市場の流れに対応することが求められます。
AIの未来は、より効率的で特化したモデルや技術の開発、推論能力の強化に向けて進化していくと考えられます。この分野での競争は、新たな技術革新と市場の変化をもたらし続けると予測されます。