クアルコム(QCOM)は、これまでスマートフォン向けプロセッサを主力としてきた半導体メーカーですが、新たな分野への多角化を積極的に進めています。同社は11月19日に開催された投資家向けイベントで、新たな売上目標を発表しました。その中でも注目されるのが、2029年までにパーソナルコンピュータ(PC)市場で40億ドルの売上を目指す計画です。この目標は、WindowsベースのノートPCやデスクトップPC市場全体の約10%に相当します。
PC市場への参入:アップルの成功モデルを追随
クアルコムの最高財務責任者(CFO)アカシュ・パルキワラ氏は、アップル(AAPL)の成功をモデルにした戦略を明らかにしています。同氏は「アップルがスマートフォン用チップをPC向けに拡張したことで、優れたパフォーマンスを実現したように、クアルコムもWindowsエコシステム向けに同じアプローチをとる」と述べました。
このPC市場への進出は、クアルコムの多角化戦略の一部に過ぎません。同社は、PCに加え、自動車やIoT(モノのインターネット)向けチップ提供を拡大することで、今後5年間で年間220億ドルの追加売上を目指しています。
アップル依存からの脱却:克服すべき課題
クアルコムは現在、アップル向けにiPhone用5Gモデムチップを供給しており、2026年までこの契約が継続される見込みです。しかし、アップルが自社開発のチップを採用する方向に進んでいるため、この売上源が失われる可能性が高いとされています。
金融アナリストのクリストファー・ローランド氏は、「CEOのクリスチアーノ・アモン氏がクアルコムをモデムおよびセルラーIP企業から、真の総合型半導体メーカーに変革させる能力を持っていることに自信を持っている」と述べつつも、アップルとのビジネス喪失が2027年まで株価に重くのしかかるとの見解を示しました。同氏はクアルコム株の「ポジティブ」評価を維持しつつ、目標株価を230ドルから210ドルに引き下げています。
AIとスマートフォン市場の未来
クアルコムの多角化戦略の成否は、人工知能(AI)技術がデータセンターから個々のデバイスへどれだけ早く広がるかにかかっています。同社は、アップルと共にAI搭載スマートフォンがモバイルデバイス市場の成長を再加速させると期待しています。
市場調査会社IDCによると、2023年の世界スマートフォン出荷台数は前年比3.2%減少しましたが、2024年には5%、2025年にはさらに7%の成長が予測されています。また、デロイトは、2025年までに生成AIを搭載したスマートフォンが総出荷台数の30%を超えると予測しています。
投資家にとっての注目点
11月20日午前の米国市場で、クアルコムの株価は6%下落し154.77ドルとなっています。ただし、同社の多角化計画が成功すれば、これが株価にプラスの影響を与える可能性があります。特にAI対応スマートフォンやWindowsエコシステムでの拡大が、今後の成長を促進するものと考えられます。
キーポイント:
- PC市場での40億ドル売上目標(2029年)
- PCに加え、自動車、IoT分野への進出で年間220億ドルの売上増加を計画
- アップル依存からの脱却が課題
- AI対応スマートフォンの普及が成長の鍵
まとめ
クアルコムは、スマートフォン用プロセッサの専門企業から、PC、自動車、IoTなどをカバーする多角化型の半導体企業へと進化を遂げようとしています。アップル依存からの脱却という課題はあるものの、AI技術の普及とともに市場の需要が高まれば、同社の新たな挑戦は大きな成果を上げる可能性があります。投資家にとっては、長期的な成長ポテンシャルを持つ企業として重要な存在と考えられます。