TSMCとして知られる台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSM)は、世界最大の半導体受託製造企業で、世界の半導体市場において60%以上のシェアを占めています。また、アップルやエヌビディアといった主要なテクノロジー企業に供給を行い、グローバルテクノロジー業界の中核を担う存在です。しかし、2024年の米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏の再選が決まった今、TSMCの株価は他のテクノロジー株とは異なる動きを見せています。本記事では、TSMCが直面する地政学リスクと、投資家にとっての投資機会を分析します。
TSMCが抱える地政学リスク:台湾を巡る不安定な状況
TSMCの本社が位置する台湾は、テクノロジー業界にとって極めて重要な地域です。しかし、中国は台湾を独立国家として認めておらず、台湾を「分離した省」と見なしています。中国の習近平国家主席は台湾との統一を推進しており、これを「不可逆的な流れ」と位置付けています。このような状況は、TSMCの株価に影響を与える大きな要因となっています。
トランプ氏の再選が決まり、米国の台湾防衛方針に変化が生じる可能性があります。例えば、トランプ氏は「台湾は防衛費を支払うべきだ」と発言し、米国の防衛に関するスタンスを再評価する可能性を示唆しています。これにより米国の台湾防衛の姿勢が変われば、中国による台湾への圧力が増し、TSMCの株価にも大きな影響を与えることが懸念されています。
TSMCの株価評価:他ハイテク株との比較
TSMCの株価は、他のハイテク株と比較して割安感があると言われています。アナリストの予測によると、同社の来年の売上は30%増加する見込みですが、株価収益率(PER)は24倍と、アップルの31倍やエヌビディアの43倍に比べて低水準です。また、利益成長に対する株価の割安度を示すPEGレシオでは、TSMCが0.8、エヌビディアが1.4、アップルが3.4となっており、TSMCの成長力が株価に十分に反映されていないことがうかがえます。
台湾リスクの中で見られるTSMCの投資機会
TSMCは、中国からの地政学的リスクを抱えながらも、過去5年間で年率31%の成長を遂げています。一方、S&P 500の年率成長は14%にとどまっています。さらに、TSMCの主要競合先であるサムスン電子やインテルの同期間の成長率は、それぞれ約20%と15%と報告されています。これらのデータから、TSMCの成長力が際立っていることが明らかです。例えば、TSMCは2024年第3四半期の決算で、AI関連の需要増加により売上が大幅に増加したと報告しています。 このように、TSMCは不安定な要素を抱えつつも、長期的な成長を期待する投資家にとって依然として魅力的な銘柄です。
多角化への取り組み:TSMCの成長戦略
TSMCは、台湾に集中していた製造拠点を分散するため、海外での工場建設を進めています。具体的には、アメリカのアリゾナ州フェニックスに最先端の半導体製造工場を建設中で、2025年から4nmプロセスでのチップ生産を開始する予定です。\
また、日本の熊本県菊陽町では、2024年2月に初の生産拠点となる工場が完成し、さらに第2工場の建設も計画されています。さらに、ドイツのドレスデンでは、欧州初となる工場の起工式が2024年8月に行われ、2027年から生産開始を目指しています。 これらの取り組みにより、TSMCは地政学的リスクの軽減を図りながら、グローバルな供給体制を強化しています。\
まとめ:TSMCは割安で魅力的な投資対象
現在のTSMCの株価は、地政学リスクや米国の防衛方針の変化に影響を受けていますが、それでも成長の可能性を秘めた魅力的な投資先です。同社はAI関連の技術に対する需要増加に伴い、製造プロセスの高度化を進め、特に3nmおよび2nmプロセスの開発に注力しています。
また、電気自動車(EV)市場向けのチップ供給拡大を通じて収益源の多様化を図ると同時に、量子コンピューティングや次世代ワイヤレス通信(6G)向けの半導体技術の開発にも積極的に投資しています。これにより、TSMCはこれら新興技術分野でリーダーシップを確立し、次世代テクノロジーの需要を取り込むことで将来的な売上増加を実現する可能性があります。
これらの成長戦略により、TSMCは長期的な成長が期待できる投資先です。今後の米国の台湾防衛政策や中国の動向次第ではリスクが伴いますが、リスクとリターンを慎重に見極めることで、分散投資の一環としても注目に値する銘柄と言えます。
*過去記事 TSMC