不況懸念が高まり、半導体セクターはこれから更に大きく落ち込むのではないかと不安視されています。インフレが消費者の購買力を蝕み、PC、携帯電話、ビデオゲームへの需要が落ち込んでいます。その一方で、最近の暗号通貨の暴落で、マイニングに使われるエヌビディア(NVDA)のグラフィックチップの中古品が市場に溢れていることも報じられています。
先週、エヌビディアがファウンドリパートナーの台湾セミコンダクター(TSM)に、新しいRTX GeForce 40チップの今年の生産を延期するよう要請したと報道されたのもこの流れによるもので、TSMはこれを拒否したため、エヌビディアは2022年に膨大な量の在庫を抱えることになるかもしれないといった情報が流れています。
しかし、ゲーム用GPUの短期的な見通しが暗い一方で、エヌビディアのデータセンター部門は、思わぬところから良い知らせを受けました。
メタ・プラットフォームズ(META)のマーク・ザッカーバーグCEOは先週、従業員との質疑応答で「もし私が賭けをするならば、これは最近の歴史の中で最悪の不況の一つかもしれない」と述べました。
ザッカーバーグ氏の言葉が指しているのが、メタの株価なのか、収益の伸びなのか、より広い範囲の経済なのかは不明ですが、ひとつだけはっきりしているのは、メタがコスト削減を行っているということです。
同氏は会議の中で、今年のエンジニアの採用を2022年までの当初の目標である1万人から、6,000人〜7,000人に減速させる計画の概要を説明し、業績不振者が自主的に退職することを期待しているとの厳しい姿勢を見せています。
メタのような大手ハイテク企業の引き締めは、エヌビディアのようなサプライヤーにとって良い知らせではありません。しかし、ザッカーバーグ氏は同じ会議で、データセンターのGPUの数を年末までに5倍に増やすという目標も示しました。この大規模な投資は、データセンター用GPUの市場を完全に抑えているエヌビディアにとって好材料となるはずです。
メタは広告収入をめぐる競争のプレッシャーの中、ベルトを締める一方で、TikTokとの熾烈な競争にもさらされています。今回のGPUへの投資は、メタの新製品「リール」やその他のコンテンツのためのディスカバリー・エンジンの構築を目的としており、短編動画で優位に立つTikTokに対抗できることを期待しているようです。
メタが開発中のディスカバリー・エンジンは、非常に高度な人工知能(AI)を利用して、ユーザーの視聴習慣や友人の興味に合わせた投稿や動画をリコメンドするもので、第1四半期のアナリストとの電話会議で、ザッカーバーグ氏は次のようなビジョンを語っています。
将来、人々はますますAIベースのディスカバリー・エンジンに頼って、楽しませたり、教えたり、同じ興味を持つ人々とつながったりするようになると思います。
AIへの投資、さまざまなタイプのコンテンツへの対応、クリエイターが生計を立てるための最高のプラットフォーム構築への取り組みが、当社のサービスをますます他の業界と差別化し、成功に導くと信じています。
また、世界的なディスカバリー・エンジンを構築するという野心的なビジョンが、このプログラムに携わる多くの有能なAI人材を惹きつけていることもわかっています。
不況がやってくる懸念の高まりとともに一般の消費者は、新しいPCやスマートフォンの購入を控えるといった生活防衛的な動きを強めていることが伝えられていますが、メタのGPU投資の事例が示しているとおり、大企業は、競争上の戦略的な理由から、AIやクラウドコンピューティングに投資する姿勢を変えていません。
一般に、AIや自動化は生産性の向上や効率化にもつながり、トータルコストを下げるものであり、それへの支出は消費者向け市場よりも不況の影響を受けにくいものです。エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが、5月下旬の時点でデータセンター分野の見通しについて自信を持っていたのも、そのためだと思われます。
エヌビディアのライバルであるアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)がTSMに対し、ノートパソコンやゲーム関連のチップの生産を遅らせるよう求めているものの、サーバー向けの最先端チップの生産を遅らせるよう求めてはいないことも、同じことを示しています。
*過去記事はこちら エヌビディアNVDA