アップル(AAPL)は6月6日に開催した2022年世界開発者会議(WWDC)で、Apple Pay Later(Apple Payで後払い)という独自のbuy now, pay later(BNPL)サービスを発表しました。Apple Payに統合されたこのサービスは、近年重要性を増している同社のサービス事業を後押しし、アファーム(AFRM)やペイパル(PYPL)などの既存のBNPLサービスプロバイダーにとっては脅威となる可能性があります。
「今すぐ買って後で払う」BNPLの人気が高まる中、Apple Pay Laterはアップルのサービス事業に良い追い風となる可能性があり、以下の2つの理由によって投資家はこのサービスの導入から恩恵を受けそうです。
Apple Payの普及と利用の拡大
Apple Payは、アップルのデバイス所有者によってまだ十分に活用されていません。昨年秋のPYMNTSの調査によると、iPhone所有者の多くがApple Payを設定している一方で、店頭での買い物に利用している人はわずか6%です。ほとんどの販売店がすでにApple Payを受け入れることができるにもかかわらず、その利用率は非常に低いままです。
Apple PayにBNPL機能を追加することで、消費者は特に店舗でApple Payを利用することが多くなるかもしれません。他のBNPLソリューションは店舗での機能を備えていますが、それらは物理的なカードやQRコード(加盟店での普及率が低い)の使用に依存しています。
アップルは、Apple Pay Laterによる売上を、加盟店がカード決済を受け入れる際に支払うインターチェンジフィーによって得ることになります。短期融資に利息を付けたり、追加手数料を徴収したりすることはなく、その意味で、そのビジネスモデルはペイパルに似ています。
ペイパルは、Pay in 4という商品で成功を収めています。ペイパルの財務・分析担当副社長Erica Gessert氏は2月のアナリスト向け電話会議で、「Buy Now, Pay Laterは、製品の実際の利用だけでなく、実際に人々がその製品を利用すると、製品利用自体の売上の約2倍というハロー効果で、我々にとって信じられないほどのリターンがあります」と述べています。
Apple Pay Laterの最大の価値は、すでにApple Payを端末に設定している消費者の間で、Apple Payの利用率を高めることにあるのかもしれません。
アップルの金融サービスの構築
Apple Pay Laterは、Apple Payの中にあるいくつかの新サービスの一つに過ぎません。同社はまた、加盟店が端末のハードウェアを追加することなく、iPhoneで支払いを受け付けられるようにするタップ・トゥ・ペイ機能を展開します。また、Apple Payを使ったオンライン注文のトラッキング機能も導入され、サービスを統合した加盟店では領収書とトラッキング情報が自動的に提供されるようになりました。
これらの機能はすべて、Apple Payの利用が他の決済手段よりも便利になるようなサービスを提供することで、Apple Payの普及を促進することを目的としています。しかし、これらの機能は、アップルがより多くの金融サービスを構築しようとしていることも示しています。
ブルームバーグの報道によると、アップルは今年、より多くの舞台裏の金融サービスを内製化することに取り組んでいるそうです。アップルは、サードパーティのフィンテック企業や提携銀行に頼るのではなく、決済処理から信用調査、融資の決定まで、すべてを社内で行いたいと考えています。
独自の金融サービスを構築することで、Apple Pay LaterやApple Cash、クレジットカードなどのサービスを、現地のパートナーに頼ることなく、グローバルに展開することが可能になるのです。そのため、Apple Pay Laterが米国で成功すれば、社内の金融サービスの開発がさらに進み、グローバル展開の可能性の種になるかもしれません。
また、独自のクレジットや融資サービスの確立は、アップルのデバイスやサービスのオールインワンのサブスクリプションサービスへの道を開くかもしれません。iPhoneとApple One(Arcade、News+、Music、iCloud+、Fitness+、TV+などのAppleのサービスをバンドルし、1回の定期的な月額支払いで利用できるサービス)は、デバイスの安定した販売を保証し、アップルのサービス事業の成長と発展を促すものとなりそうです。
デバイス販売が当面逆風にさらされる中、アップルとその投資家にとってサービス事業の重要性が増しています。Apple Pay Laterの導入は、アップルがより大きな金融サービス事業を計画する上での小さな一歩ですが、巨大ハイテク企業のサービス部門全体を強化するものになる可能性があります。
*過去記事はこちら アップル AAPL