連日高騰しているアップスタート(UPST)ですが、もちろん良いところばかりではありません。新興株である限りリスクも抱えています。
これについては6月に「アップスタート 独自のAI融資プラットフォームを提供するディスラプター(4)」の中で書いたのですが、他の記事に埋もれて見つけ出しにくくなっていますので、タイトルを変えて再掲します。
既読の方には申し訳ありませんが、アップスタートが俄然注目を集めるようになったなか、新しく当ブログにアクセスして記事を読まれる方が急増していますので、ご容赦ください。
再掲記事のあとには、記事を掲載したあと得た情報を付け加えています。
誤解されがちのようですが、アップスタートは金融機関ではありません。ローンを組成せず、資金を供給せず、顧客が返済できなくても責任を負いません。基本的にアップスタートのプラットフォームは、手数料がベースです。
貸し手である銀行と借り手である消費者の間に立ち、借り手の信用度をそのAIモデルで判定した評価を貸し手に提供することの手数料でアップスタートの商売は成り立っています。売上の96%は銀行からの手数料で得ています。
ですから、アップスタートが成長して行けるかは、貸し手と借り手、双方との関係次第になるわけです。
売上を順調に伸ばし、2020年についに利益を出すまでに至ったのには、この関係が順調であることが反映されています。
まず、貸し手である銀行との関係ですが、昨年の売上のほとんどが2つの銀行との取引によるものです。ひとつの銀行が売上の63%、もうひとつが18%が占めたそうで、この2つで売上の8割以上を占めているとのこと。そのひとつはニュージャージー州フォートリーにあるクロスリバー銀行だということは判明しており、同行は個人向けローンをものすごい勢いで販売していることで知られているようです。
売上は急増していますが、そのソースはたった2つの銀行に偏っていること、これがまず貸し手との関係で認識しておくべき、当面のリスクです。
借り手との関係で押さえておかなければならないリスクは、これまたソースの集中というリスクと定義できるのですが、借り手である消費者にリーチする手段が、主として「Credit Karma」というクレジットスコア管理サービスを通してのものになっていることです。
Credit Karmaは無料で使えるツールで、自分の財務状況を管理するために多くの米国人が使っているものです。登録ユーザー数は1億人を超える最大手であり、100社以上の金融機関のクレジットカードやローン商品を提案し収益化を行っており、年間売上は10億ドル弱と公表されています。
アップスタートが提供するローンのうち、2020年は52%がCredit Karmaを利用してアップスタートのウェブサイトにたどり着いた顧客によるものでした。2019年は38%でしたから、Credit Karmaへの依存度は増しています。
Credit Karmaとアップスタートの間には契約があり、顧客を紹介するたびにCredit Karmaに報酬が支払われる関係と想定されますから、今のところはwin-winの関係にあります。ただ、アップスタートの躍進が続いていくとこの関係が持続するかはわかりません。Credit Karmaが2020年4月に米会計ソフト最大手のイントゥイット(INTU)に買収されたことは不安材料です。アップスタートの将来性の高さに注目し、イントゥイットが自分がとって代わりたいと思っても不思議ではないからです。
アップスタートには現時点ではこのようなリスクがあると考えられます。ただ、これはいずれも短期的なもので永続性のある問題ではないと考えています。
とにかくポイントは、「人工知能を活用したプラットフォームにより、従来のクレジットスコアリングよりも完全な形で個人の信用力を評価する」というアップスタートのAI融資プラットフォームの実力次第だということです。
その力が抜きん出ていれば、上記のような問題は何ほどのものでもありません。
AI融資プラットフォームの能力の高さが知られれば知られるほど、多くの銀行が採用するようになり、一部の銀行への偏りなどは消えていくでしょう。
顧客についても同様です。アップスタートのAI融資プラットフォームを使うことによって信用がより得やすくなり、金利も低くなることが知られるようになれば、紹介されなくても自然と顧客は集まって来ます。
ソースの集中という現在の問題への懸念はアップスタートの評価が高まるにつれ薄れていくと思います。しかし、この銘柄の本源的なリスクはしばらくの間は常につきまとうと覚悟する必要があります。
アップスタートの最終的な成功は、そのAIモデルが従来の信用スコアリングモデルよりも優れた結果を銀行というパートナーにもたらすかどうかにかかっています。アップスタートがその実力を完全に証明するには、景気後退などビジネスサイクル全体を経験する必要があり、完了までに数年かかる可能性があります。
その成功を信じ、乱高下する株価の動きに耐えていけるか、投資の実行にその覚悟が必要なことだけは間違いありません。
ここからは、上記記事を書いた以降に得た情報。アップスタートのCEOであるデイブ・ジルーアード氏がモトリーフールのインタビューで語ったことです。
貸し手のソースの問題
現在、アップスタートの銀行パートナー(特にクロスリバー銀行)は、プラットフォームを利用して行われたすべてのローンの大部分を組成しています。
しかし、これらのパートナーは、すべてのローンのクレジットエクスポージャーを保持しているわけではなく、多くのローンを既存の市場を通じて他の金融機関や投資家に売却しています。
ジルアード氏の説明によると、資本市場の100以上の機関がアップスタートのAIプラットフォームから生成されたローンに投資しており、アップスタートは融資市場の急成長しているニッチ分野における流動性の重要な提供者となっています。
借り手のソースの問題
多くの投資家は、アップスタートと消費者の信用情報を提供するCredit Karmaとの関係に注目しており、その協力関係が解消された場合に何が起こるかを懸念しています。
これについて、ジルアード氏は、アップスタートのウェブサイトに直接アクセスする顧客が増えていることを指摘しています。
これは、口コミによる場合もあれば、ソーシャルメディアやインターネットの検索エンジンなどの確立されたチャネルによる場合もあります。共同設立者/CEOであるジルーアード氏は、顧客の紹介という多様なソースが増えていることに満足しています。
AI融資プラットフォームの実力について
アップスタートの最大の資産は、独自に開発した最先端のAIプラットフォームを支える知的財産であり、ジルアード氏は大手銀行らの競合他社がアップスタートの行ってきた仕事を複製することを恐れていません。
同氏の説明によると、データを収集し、それを解釈し、初期のAIモデルを構築すること。そして、実環境下でのパフォーマンスを確認し、時間をかけてパフォーマンスを向上させることを目標にそれを改良するというプロセスには、単純な近道はありません。
もちろん、大手銀行がその豊富なリソースを用いて、アップスタートの9年間に及ぶ実績を持つ融資AIの先を行くことができないというわけではありません。
ただ、、競合他社は実証されていない融資モデルに賭けなければならないのに対し、アップスタートは豊富な経験から、自社のモデルがより成功するという自信を持っています。
ジルアード氏は、アップスタートが立ち上げの過程で多くのことを学んだことを指摘しています。競合他社は、同じ学習曲線をたどって独自の洞察を得なければなりません。