バイオジェン（BIIB）のアルツハイマー病治療薬であるアデュヘルムを米国食品医薬品局（FDA）が6月7日に承認したのは、この薬が患者の脳内のジャンク・プロテインのレベルを低下させることができるという根拠に基づいていたからです。アミロイド・プラークと呼ばれるタンパク質を除去することで、認知機能の低下が抑えられると考えられています。
今回の承認以前は、アミロイドを除去するだけでアルツハイマー病治療薬がFDAから承認されるとは考えられていませんでした。今回の承認により、アデュヘルムのようにアミロイド斑を除去することはできても、認知機能の低下を抑制することが明確に証明されていない他の薬剤が承認される可能性が出てきました。イーライリリー（LLY）ドナネマブ、ロシュ・ホールディング（RHHBY）のGantenerumabらの名前があがっています。また、バイオジェンとそのパートナーであるエーザイ（ESALY）は、BAN2401として知られる3つ目の薬を持っています。
プラーク・クリアランスがアルツハイマー病患者に臨床的なメリットをもたらすかどうか、科学的なコンセンサスはまだ得られていません。実際、承認後に3人の科学者が抗議してFDAの諮問委員会を辞任しました。しかし、今回のFDAの決定により、類似薬の市場が急拡大する可能性があり、バイオジェンだけでなく、イーライリリーやロシュにとっても大きな成長の機会となると考えられます。
バイオジェンによれば、アデュヘルムの効果が最も期待できるカテゴリーのアルツハイマー病患者は、100万人から200万人に上る可能性があるそうです。
バーンスタインのアナリストであるロニー・ガル氏は、2020年代末までに市場全体が400億ドルになる可能性があると述べています。
このニュースを受けてバイオジェンの株価は急騰し、6月7日だけで38％も上昇、週の後半には420ドルで取引されていました。ジェフリーズのアナリスト、マイケル・イー氏は、株価の目標値を450ドルから500ドルに引き上げています。
イーライリリーもこの1週間で約15％上昇し、ロシュは7％上昇しています。アデュヘルムの決定がこれらの企業にどのような影響を与えるかは、FDAにかかっていますが、辞任騒動に揺れるFDAはこれまで以上に不可解な存在になっているようです。
みずほ証券のアナリストであるVamil Divan氏は、もしアデュヘルムの判例によってイーライリリーがドナネマブを1年早く販売することができた場合、割引キャッシュフロー分析に基づいて、株価は233ドルから270ドル近くになる可能性があると書いています。
ドナネマブの認知機能に対する効果は、大規模な試験では賛否両論ありましたが、プラークを除去する能力はアデュヘルムよりも優れているかもしれません。3ヶ月前、イーライリリーは、承認申請の前に2回目の大規模試験を行う必要があると言っていましたが現在は再考しているようです。投資家は次の決算説明会で詳細を知ることになるだろう、とDivan氏は言っています。
アルツハイマー病の市場は広大です。バイオジェンによれば、アデュヘルムの効果が最も期待できるアルツハイマー病患者は100万人から200万人に上るそうです。バイオジェンは、アデュヘルムを年間56,000ドルという驚くべき価格で販売していますが、アデュヘルムをメガブロックバスターにするためには、効果が期待できる患者の一部の人がアデュヘルムを服用する必要があります。
アナリストの予想では、数年以内にアデュヘルムの年間売上が50億ドルから100億ドルになると言われています。FDAは、アルツハイマー病患者の服用に制限を設けていません。民間の保険会社やメディケアでも、特定の患者に限定することは可能です。
バイオジェンの幹部は、この薬の売上はゆっくりと伸びると予想しており、医師はおそらく最も効果が期待できる患者にしか薬を与えないだろうと語っています。バイオジェン社のチーフ・メディカル・オフィサーであるマハ・ラドリシュナン博士は、バイオジェンが提出した大規模なデータセットについて、「基本的には、医師が患者とその家族との話し合いと合わせて正しい判断を下すという確信をFDAに与えている 」と述べています。
バイオジェン社は、年間100万人の患者を治療するのに十分な量の薬剤を製造することができるとしており、年間400万人以上の患者を治療するのに十分な量を製造するように能力を高めることも可能だそうです。
イーライリリーが市場に参入するとどうなるかは不明です。SVB Leerink社のアナリストであるMarc Goodman氏は、イーライリリーが実施するドナネマブの2回目の試験で良好なデータが得られれば、バイオジェンの市場シェアを奪うことになるかもしれないと考えています。
一方で、市場規模が十分に大きいため、これらの薬剤はお互いに補完しあうだろうという意見もあります。カウエンのアナリスト、フィル・ナドー氏は、「これらの薬が何か良いことをしていると人々が信じれば、アルツハイマー病の市場は70億ドルではなく、もっともっと大きな市場になるだろう」と述べています。
バーンスタインのガル氏は、2028年までに、イーライリリーのドナネマブが164億ドル、アデュヘルムが109億ドル、ロシュが92億ドルの売上を上げると予測しています。「バイオジェンは、短期的にはアウトパフォームし、効果的に販売すれば、アルツハイマー病における広範なリーダーシップのための承認を得ることができるポジションにある」とガル氏は書いています。