前回の記事「スペースXがGEベルノバを脅かす?AI電力不足で始まるタービン争奪戦」では、スペースX(SPCX)がガスタービン向け部品の製造に乗り出す可能性と、それがGEベルノバ(GEV)やハウメット・エアロスペース(HWM)など既存企業に与える影響を考察しました。
そこで浮かび上がったのは、スペースXほどの製造能力を持つ企業でさえ自社生産を検討するほど、AIデータセンター向け電力設備の供給が逼迫しているという構図でした。
しかし、今回さらに注目したいのは「なぜスペースXはそこまで自分で作ろうとするのか」という点です。
タービン部品への参入だけを見ていると、スペースXが新たに重工業へ進出しようとしているように見えます。しかし同社のこれまでの歴史を振り返ると、そこには一貫した経営思想があります。
自社の成長を妨げるものがあれば、そのボトルネックそのものを自社に取り込む――。スペースXが目指しているのは、従来の垂直統合をさらに進めた「超・垂直統合」とも呼べるビジネスモデルです。
必要なものがなければ自分で作るスペースX
従来の製造業では、専門性の高い部品や工程を外部サプライヤーへ委託し、自社は設計や最終製品など得意分野に経営資源を集中することが一般的でした。
しかし、スペースXは正反対の方向へ進んできました。
ボーイング(BA)の航空機部品の内製率が約40%とされるのに対し、スペースXではロケット部品の約90%を自社で製造しているとされています。
この違いは単なるコスト削減策ではありません。
スペースXが最も重視しているものの1つが開発と生産の「スピード」です。
外部メーカーから部品が届くまで何カ月も待たなければならなければ、そのサプライヤーがスペースX全体の成長速度を決めることになります。
そこで同社は、必要な部品を十分な速度で調達できない場合、自ら製造ラインを構築するという方法を選んできました。
つまり「市場から買えるか」ではなく、「自社の成長速度に間に合うか」が内製化を判断する基準になっているのです。
タービン参入も単独の新規事業ではない
この視点で見ると、前回取り上げたタービンブレードやベーンの自社生産構想も違った意味を持ってきます。
前回記事では、AIデータセンター向け電力需要の急増によってガスタービンやその部品の供給能力が新たなボトルネックになっていることを取り上げました。
イーロン・マスクCEOがタービン向けブレード製造への参入を示唆した後、GEベルノバ株は1.5%下落し、ハウメット・エアロスペース株は7.5%下落しました。
ただし、今回のポイントはスペースXがGEベルノバのようなガスタービンメーカーになるかどうかだけではありません。
重要なのは、必要な発電設備を十分な速度で入手できないのであれば、その部品製造にまで入り込むというスペースXの行動原理です。
タービンへの参入は突然始まった異業種進出ではなく、ロケット開発で確立した垂直統合モデルを電力インフラへ広げようとしている動きと見ることができます。
半導体にまで広がる「ボトルネック内製化」
同じ構図は半導体でも見え始めています。
スペースXとテスラ(TSLA)が共同で半導体製造施設を建設する構想が報じられていることも、その象徴です。
AI、ロボット、自動運転、衛星通信などが拡大すれば、半導体は企業の成長を左右する重要な戦略物資になります。
半導体メーカーの生産能力に依存している限り、供給不足が発生した際には自社の成長計画そのものを変更しなければならなくなります。
それなら製造能力そのものを確保してしまう。
ロケット部品、半導体、タービン部品と対象はまったく異なりますが、根底にある考え方は共通しています。
スペースXは「何を作る会社なのか」という業種の枠組みではなく、「成長を妨げるものを自分で作る会社」と考えたほうが、その戦略を理解しやすいのかもしれません。
ロケット会社から巨大産業プラットフォームへ
スペースX最大の競争力は、ロケットそのものだけではありません。
ファルコン9やスターシップという宇宙輸送インフラを自社で持ち、そこからスターリンクという通信ネットワークを構築しています。
さらに半導体やエネルギー関連設備まで自社のサプライチェーンに取り込めば、その経済圏は一段と巨大になります。
ロケットを作る。
衛星を打ち上げる。
通信ネットワークを運営する。
AI処理に必要な半導体を確保する。
そして、それらを動かすために必要な電力設備の部品まで製造する。
これらが1つの企業グループの中でつながれば、スペースXは単なる宇宙企業ではなくなります。
宇宙、通信、AI、半導体、エネルギー、重工業を結ぶ巨大な産業プラットフォーム企業へ変貌する可能性があります。
最大のリスクは野望そのもの
もちろん、垂直統合を進めれば必ず成功するわけではありません。
半導体製造には巨額の設備投資が必要であり、タービンブレードには特殊合金、精密鋳造、冷却技術、耐熱コーティングなど高度な製造ノウハウが求められます。
ロケットで成功したスペースXでも、GEベルノバやハウメット・エアロスペースなどが長年蓄積してきた技術を短期間で再現できるとは限りません。
さらに、宇宙輸送、通信、AI、半導体、電力設備へと事業領域を広げすぎれば、エンジニアや資本など経営資源が分散するリスクもあります。
株式市場でも期待と警戒が交錯しています。製造分野への参入が注目された際には株価が1.6%上昇した一方、翌日である9月1日には1%下落し、142.23ドルで取引を終えました。
投資家はスペースXの巨大な成長余地を評価する一方、それを実現するために必要な設備投資と実行力も慎重に見極めようとしていると考えられます。
次に何を内製化するのかがスペースXを見るポイント
前回の記事では、スペースXによるタービン部品参入をAI電力不足とGEベルノバなど既存企業への影響という視点から考察しました。
今回さらに視野を広げてみると、タービン参入はスペースXが進める巨大な垂直統合戦略の一部分にすぎない可能性があります。
同社は新しい市場を探して無秩序に事業を拡大しているのではなく、自社の成長を妨げるボトルネックを1つずつ取り除く過程で事業領域を広げています。
この違いは重要です。
ロケットから衛星通信へ、衛星通信からAIへ、そして半導体や電力インフラへ。
スペースXの成長を考えるうえでは、売上高やロケットの打ち上げ回数だけでなく、「次に何が成長のボトルネックになるのか」を見る必要があります。
そのボトルネックこそ、スペースXが次に参入する産業になる可能性があるからです。
スペースXが目指しているものは、宇宙産業の覇者という枠では収まりません。
自社の成長に必要なサプライチェーンそのものを次々と構築する「超・垂直統合」が成功すれば、同社は21世紀を代表する巨大産業企業へ進化する可能性があります。
そして投資家にとって興味深いのは、その過程でスペースXだけでなく、半導体、電力設備、特殊素材、重工業など周辺産業の競争構造まで大きく変わる可能性があることです。
情報ソース: Barron’s: “How SpaceX’s Speed and Ambition Are Threatening Legacy Defense and Telecom” (By Al Root, Sept 01, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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