量子コンピューター関連株への関心が再び高まっています。なかでも、クオンタム・コンピューティング(QUBT)は、これまで市場で評価が分かれてきた銘柄です。
同社は量子フォトニクスや量子光学技術を軸に、量子コンピューティングの商業化を目指しています。ただし、事業の実態や生産能力に対する疑問もあり、同業のイオンキュー(IONQ)、リゲッティ・コンピューティング(RGTI)、ディーウェーブ・クオンタム(QBTS)と比べると、株価面では出遅れ感がありました。
そうした中、クオンタム・コンピューティングが発表した第1四半期決算は、市場に一定の驚きを与えました。売上高が前年同期から大きく伸び、商業化に向けた初期段階の進展が確認されたためです。一方で、営業損失の拡大や情報開示の不透明さなど、投資家が慎重に見るべき課題も残されています。
本記事では、バロンズが報じた決算内容をもとに、クオンタム・コンピューティングの現状と今後の展望を整理します。
第1四半期決算で売上高は急拡大
クオンタム・コンピューティングは、5月11日の取引終了後に第1四半期決算を発表しました。
最も注目されたのは、売上高の急増です。第1四半期の売上高は369万ドルとなり、前年同期の3万9000ドルから大きく拡大しました。ファクトセットがまとめたアナリスト予想の313万ドルも上回っており、市場予想を超える内容だったといえます。
この数字は、規模としてはまだ小さいものの、同社が単なる研究開発段階から初期の商業化段階へ移りつつあることを示す重要な材料です。量子コンピューター関連企業の多くは、将来性への期待が先行する一方で、実際の売上規模がまだ限られています。そのため、売上が具体的に伸び始めたことは、投資家にとって前向きなサインとなりました。
決算発表後、同社株は時間外取引で15%上昇しました。市場は、売上の急拡大とアリゾナ州のファウンドリから初期収益が出始めた点を評価したと考えられます。
営業損失の拡大は大きな課題
一方で、決算内容には明確なリスクもあります。
第1四半期の営業損失は2000万ドルとなり、前年同期の830万ドルから大きく拡大しました。売上高が369万ドルであることを考えると、現時点では事業拡大に伴うコスト負担が非常に重い状態です。
純損益も赤字となりました。前年同期は約1700万ドルの純利益を計上していましたが、今回は410万ドルの純損失となっています。会社側は、過去の合併に伴う会計上の利益が減少したことや、営業費用の増加を理由として説明しています。
ここで重要なのは、売上の伸びそのものはポジティブである一方、コスト増加のペースが速い点です。量子コンピューター企業は研究開発、設備投資、人材確保に多額の資金が必要です。そのため、売上が増え始めても、すぐに黒字化するとは限りません。
今後の焦点は、同社が売上成長を継続できるか、そして営業損失を徐々に抑えられるかです。もし赤字幅が拡大したまま事業拡大を続ける場合、追加の資金調達が必要になる可能性があります。その場合、株式の希薄化リスクも意識されます。
アリゾナ・ファウンドリは信頼回復のカギ
今回の決算で特に注目されたのが、アリゾナ州にある研究開発および試作向けファウンドリの進捗です。
同社は、この施設が初期収益を生み出し始めたと説明しました。さらに、生産能力を拡大するため、2か所目の施設開設を検討していることも明らかにしています。
この発表は、同社にとって重要な意味を持ちます。なぜなら、クオンタム・コンピューティングのアリゾナ施設については、過去に空売り投資家のアイスバーグ・リサーチが疑問を投げかけていたからです。同社の施設は量産拠点というより、小規模な研究所に過ぎないのではないかという見方がありました。
その後、同社はメディアの取材に積極的に応じてこなかったため、市場には不透明感が残っていました。2025年には、リゲッティ・コンピューティングやディーウェーブ・クオンタムなどの量子関連株が大きく上昇する一方で、クオンタム・コンピューティングは株価が下落し、出遅れ銘柄となっていました。
今回、アリゾナ施設から初期収益が出始めたと示したことは、同社に対する疑念を一定程度和らげる材料になります。もし今後、2か所目の施設開設や生産能力の拡大が具体化すれば、同社の事業実態に対する市場の見方は変わる可能性があります。
ただし、収益の内訳や顧客構成、ファウンドリの稼働状況については、まだ十分に明らかになっていません。市場の信頼を本格的に回復するには、より透明性の高い情報開示が必要です。
新CEOの下で進む買収と垂直統合戦略
クオンタム・コンピューティングは、経営体制の面でも転換点を迎えています。
2026年1月にYuping Huang氏がCEOに正式就任しました。同氏のもとで、同社はM&Aを通じた事業強化を進めています。2月には、ルミナー・セミコンダクターと量子光学企業ニュークリプトの買収を完了しました。
ルミナー・セミコンダクターは、親会社であるルミナー・テクノロジーズが2025年12月に破産申請した後に売却された事業です。クオンタム・コンピューティングにとっては、経営破綻した企業から技術や資産を取り込む機会になったといえます。
この買収は、同社が量子技術の研究開発だけでなく、ハードウェアの製造能力や関連技術を自社内に取り込もうとしていることを示しています。つまり、外部に依存するのではなく、自社で開発から製造までの流れを強化する垂直統合戦略です。
量子コンピューティング分野では、技術の優位性だけでなく、それを安定的に製品化できる製造体制が重要になります。クオンタム・コンピューティングがこの分野で差別化を図るには、研究成果を実際の売上につなげる力が問われます。
期待先行の量子関連株に必要な実績
量子コンピューター関連株は、将来性への期待で株価が大きく動きやすい分野です。イオンキュー、リゲッティ・コンピューティング、ディーウェーブ・クオンタムなどは、投資家の注目を集める代表的な銘柄です。
ただし、量子コンピューター市場はまだ発展途上です。商業化の時期、実用化できる分野、収益化のペースには不確実性があります。そのため、単に「量子」というテーマ性だけで評価するのではなく、各社がどれだけ具体的な売上や顧客基盤を築けるかが重要になります。
クオンタム・コンピューティングの場合、今回の決算で売上が急増したことは大きな前進です。一方で、営業損失の拡大、資金調達リスク、施設の実態に関する透明性など、解決すべき課題も多く残っています。
今後の注目点
今後、投資家が注目すべきポイントは3つあります。
1つ目は、売上成長の継続性です。第1四半期の売上増が一時的なものなのか、それとも今後も拡大していくのかが重要です。
2つ目は、営業費用の管理です。売上が伸びても、それ以上にコストが増え続ける場合、黒字化への道筋は見えにくくなります。
3つ目は、情報開示の改善です。アリゾナ・ファウンドリの収益内容、顧客、稼働状況、2か所目の施設計画などについて、より具体的な説明が求められます。
クオンタム・コンピューティングは、量子関連株の中でもリスクと期待が大きく入り混じる銘柄です。今回の決算は、同社が本格始動に向けて一歩を踏み出した可能性を示しました。しかし、その歩みが持続的な成長につながるかどうかは、今後の決算と情報開示によって判断されることになります。
情報ソース: Barron’s: “This Quantum Stock Has Been a Laggard. Why Shares Are Up 14% After Earnings.” (By Mackenzie Tatananni, May 11, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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