サークル・インターネット・グループ(CRCL)が5月11日のマーケット開始前に発表した2026年第1四半期決算は、同社の事業が新たな局面に入りつつあることを示す内容となりました。
同社はステーブルコイン「USDC」を発行する企業として知られています。これまでは、暗号資産市場の成長や金利環境を背景に、準備資産から得られる利息収入を中心に売上を拡大してきました。
しかし、今回の決算では、従来型の収益モデルに一定の限界が見えた一方で、AIエージェント向け決済や機関投資家向けブロックチェーンという新たな成長分野への展開が明確になりました。
第1四半期決算の概要
第1四半期の売上高は6億9400万ドルとなり、アナリスト予想の7億1500万ドルを下回りました。前四半期の7億7000万ドルからも減少しており、売上面ではやや物足りない結果です。
一方で、1株当たり利益(EPS)は21セントとなり、市場予想の19セントを上回りました。売上高が予想を下回ったにもかかわらず利益が上振れた点は、同社のコスト管理や利益率改善が進んでいることを示しています。
主力事業であるUSDCの流通量は、3月末時点で770億ドルに達しました。前年同期比では28%増となっており、ステーブルコインとしての需要は着実に拡大しています。
ただし、準備金利回りは前期比で0.66ポイント低下し、3.5%となりました。サークルの売上は、USDCの準備資産から得られる利息に大きく依存しているため、金利低下は売上高の下押し要因になります。
つまり、今回の決算は「USDCの利用は拡大しているが、金利低下によって従来の収益モデルには逆風が出ている」という構図を示したと言えます。
株価が上昇した理由
決算発表後、サークルの株価は5月11日の取引で15.8%上昇し、131.61ドルをつけました。年初来では66%の上昇となっています。
売上高が市場予想を下回ったにもかかわらず株価が大きく上昇した理由は、投資家が足元の数字よりも、同社の新たな成長戦略を評価したためです。
今回、同社はAIエージェント向けの新サービスを発表しました。具体的には、AIプログラムが利用できる専用ウォレット、0.000001ドルからのナノペイメントを可能にする仕組み、開発者向けインターフェースなどが含まれます。
この発表は、サークルが単なるステーブルコイン発行会社から、AI時代の決済インフラ企業へ進化しようとしていることを意味します。
AIエージェント経済への大きな賭け
今後、AIエージェントが人間の代わりに情報を検索し、サービスを選び、契約し、支払いまで行う時代が来ると考えられています。
そのときに重要になるのが、AI同士が高速かつ低コストで価値をやり取りするための決済手段です。
従来のクレジットカードや銀行送金は、人間の商取引には適しています。しかし、AIエージェントがミリ秒単位で小さな取引を大量に行う世界では、処理速度や手数料の面で限界があります。
サークルが打ち出した0.000001ドルからのナノペイメントは、この課題に対応するための仕組みです。
もしUSDCがAIエージェント同士の標準的な決済手段として使われるようになれば、同社のビジネスは大きく変わります。これまでの暗号資産取引向けのステーブルコインから、AI経済を支える基軸通貨のような存在へ進化する可能性があります。
この点が、投資家にとって最も大きな期待材料になっています。
Arcネットワークが示す機関投資家向け戦略
もう一つ注目すべき発表が、機関投資家向けの新たなブロックチェーンネットワーク「Arc」です。
サークルは、Arcの立ち上げに向けて独自トークンのプレセールを行い、2億2200万ドルを調達しました。ネットワークの評価額は30億ドルとされています。
このプレセールには、アンドリーセン・ホロウィッツ、アポロ・ファンズ、ブラックロック(BLK)などの著名な投資家や金融機関が参加しました。
これは非常に重要な意味を持ちます。サークルが、暗号資産業界だけでなく、伝統的金融の世界にも深く入り込もうとしているからです。
Arcが機関投資家向けのブロックチェーン基盤として広がれば、債券、ファンド、決済、資金移動など、幅広い金融取引がブロックチェーン上で行われる可能性があります。
その中心にUSDCやサークルのインフラが置かれれば、同社は次世代金融システムの重要なプラットフォーマーになる可能性があります。
既存ビジネスの課題も残る
一方で、楽観ばかりはできません。
今回の決算では、売上高が市場予想を下回り、前四半期からも減少しました。これは、同社の既存ビジネスが金利環境や暗号資産市場の取引需要に大きく左右されることを示しています。
特に、準備金利回りの低下は大きなリスクです。USDCの流通量が増えても、利回りが低下すれば、準備資産から得られる売上は伸びにくくなります。
また、AIエージェント向け決済やArcネットワークは将来性のあるテーマですが、まだ本格的な売上貢献が見えている段階ではありません。
投資家は、現在の売上高よりも将来の可能性を買っている状態です。そのため、成長戦略の進捗が鈍れば、株価が大きく調整するリスクもあります。
株価バリュエーションをどう見るか
サークルの株価は年初来で66%上昇しています。一方で、昨年6月のIPO直後につけた最高値298.99ドルからは、まだ半値以下の水準です。
この株価水準をどう評価するかは、同社を単なるステーブルコイン企業と見るか、AI時代の決済インフラ企業と見るかで大きく変わります。
単なる利息収入型のステーブルコイン企業として見れば、売上高の伸び悩みや金利低下リスクは無視できません。しかし、USDCがAIエージェント経済や機関投資家向けブロックチェーンの中心的な決済手段になると考えるなら、現在の株価にはまだ成長余地があるとも考えられます。
アナリスト27名中13名が買い推奨としている点からも、市場は同社の事業転換に一定の期待を寄せていることが分かります。
サークルの将来性
サークルの将来性は、もはや暗号資産市場の盛り上がりだけに依存していません。
今後の焦点は、USDCがAIエージェント同士の決済手段として普及するか、そしてArcネットワークを通じて伝統的金融の資金をブロックチェーン上に呼び込めるかです。
この2つが成功すれば、同社は「暗号資産の裏方」から「AI経済と次世代金融の基盤」へと進化する可能性があります。
一方で、売上高の減少や金利低下の影響を見る限り、既存ビジネスには明確な課題もあります。現在の株価上昇は、足元の業績というよりも、AI経済への期待を先取りしたものです。
そのため、今後はUSDCの流通量、AI向け決済サービスの利用拡大、Arcネットワークの実用化、機関投資家の採用状況が重要なチェックポイントになります。
サークルは、ステーブルコイン市場の成長企業にとどまるのか、それともAI時代の決済インフラ企業へ脱皮できるのか。今回の決算は、その分岐点を示す重要な発表だったと言えます。
情報ソース: Barron’s: “Circle Internet Stock Rockets After Earnings. The Stablecoin Company Is Betting on AI.” (By Joe Light, May 11, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事「株価23%急騰!サークル決算から読み解く「仮想通貨の冬」の終わり」
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