米国株式市場において、スマートフォンに次ぐ「次世代のメインデバイス」の最有力候補として、スマートグラスへの注目が急速に高まっています。2025年の世界出荷台数が前年比4倍以上の870万台に達し、2026年には1500万台への急拡大が見込まれるこの市場は、もはや黎明期を抜け、本格的な普及期に入ろうとしています。
プラットフォーマーの覇権争い:メタの先行優位と追従する巨兵
現在のスマートグラス市場において、メタ・プラットフォームズ(META)は85%以上という圧倒的な市場シェア(2025年時点)を握り、先行者利益を享受しています。度付きレンズ対応モデルの追加など、実用性を高めることでその堀(モート)をさらに深くしようとしている姿勢が伺えます。同社のリアリティ・ラボ部門の売上が21億5000万ドル(2024年)から22億1000万ドル(2025年)へと堅調に推移していることからも、ウェアラブル投資が徐々に形になりつつあると言えます。
しかし、この圧倒的シェアが今後も安泰であるとは限りません。かつて「グーグル・グラス」で市場から一時撤退したアルファベット(GOOGL)がワービー・パーカー(WRBY)への7500万ドルの出資を通じて再参入の足場を固め、さらにアップル(AAPL)やサムスンがAI搭載モデルの投入を控えています。特にアップルについては、アナリストから「2030年末までに5000万台、150億ドル以上の売上」という強気な予測も出ており、2026年以降は巨大テック企業間の激しいシェア奪い合いが展開されると予想されます。
「つるはしと金脈」戦略:真の勝者はサプライチェーンか
テクノロジーの転換期において、最終製品の勝者を当てるよりも確実性が高いのが、インフラや部品を提供する「サプライヤー」への投資です。
半導体・部品メーカー
クアルコム(QCOM)はメタの製品の頭脳を担い、2029年までにXRデバイス関連で20億ドル以上の売上目標を掲げています。直近1年で株価は23%の下落を記録していますが、スマートグラス市場の拡大が本格化すれば、市場の過小評価が見直される転換点となる可能性があります。また、ディスプレイや無線コンポーネントを担うグローバルファウンドリーズ(GFS)も、視覚的インターフェースの進化において欠かせない存在です。
次世代バッテリーと特許技術
ウェアラブル最大の課題は「バッテリーと軽量化」です。シリコン負極電池を手掛けるエノビックス(ENVX)は、過去1年で株価が30%以上下落し5ドル近辺で推移していますが、市場に絶対的王者が不在の今、技術革新によって大きな巻き返しを図るポテンシャルを秘めています。さらに、時価総額わずか2億ドルながら450以上の特許やIPライセンスを保有するビュージックス(VUZI)は、市場全体が拡大した際にライセンス収入で潤う「知財のプラットフォーマー」として化ける余地があります。
小売業の逆襲:普及のボトルネックを解消する存在
見落とされがちなのが、スマートグラスを消費者に届ける「ラストワンマイル」を担う小売企業の存在です。アイウェアはガジェットであると同時にファッションであり、医療器具(度付きレンズ)でもあります。
グーグルと組むワービー・パーカーは、2030年までに70万台の販売が見込まれており、普及シナリオ次第ではその数倍のアップサイドが指摘されています。また、第2四半期までにメタの製品を全店展開するナショナル・ビジョン(EYE)は、過去1年間で株価が2倍以上に上昇(現在約24ドル)しており、すでにスマートグラス特需を業績に織り込み始めています。オンライン完結が難しい「メガネ」という商材の特性上、これらの小売企業はテック企業にとって不可欠なパートナーとしての交渉力を高めていくはずです。
懸念材料:プライバシー問題というアキレス腱
市場の急成長に冷や水を浴びせかねない最大のリスクは「プライバシー規制」です。現在、メタおよび製造パートナーのエシロールルックスオティカに対して、データ収集に関する集団訴訟の動きが米国で起きています。カメラとAIを常時稼働させるスマートグラスの性質上、法規制や訴訟リスクは常に付き纏います。このコンプライアンスの壁をどう乗り越えるかが、各社の普及スピードを左右する最大のファクターとなります。
総括
スマートグラス市場は、メタの先行逃げ切りに対し、アップルやグーグルの陣営が猛追する構図へと移行しつつあります。投資戦略としては、単一のハードウェアブランドに賭けるだけでなく、クアルコムやグローバルファウンドリーズといった「頭脳・部品」、あるいは実店舗での普及を牽引するナショナル・ビジョンやワービー・パーカーなどの「小売インフラ」へ分散してアプローチすることが、次なるメガトレンドの恩恵を享受する賢明な手法と言えます。
情報ソース: Barron’s: “ Smart Glasses Might One Day Replace Your Phone. These Stocks Can Benefit.” (By Adam Clark, March 31, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事「販売数3倍!メタのスマートグラスが「隠れたヒット」から「主力」へ化ける瞬間」
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