2025年に入り、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の株価は7%下落し、過去1年間では32%の下落となっています。しかし、バンク・オブ・アメリカのアナリストは、人工知能(AI)向け半導体市場において、同社にはまだ大きな成長余地があると分析しています。
エヌビディアがAIアクセラレーター市場を独占
バンク・オブ・アメリカのリサーチアナリスト、ビベック・アリヤ氏によれば、エヌビディア(NVDA)はAIアプリケーション向けの高速処理ハードウェア、いわゆるAIアクセラレーター市場の80%以上を占有しています。さらに、他のテクノロジー企業が開発するカスタムチップも、10〜15%の市場シェアを持つと見られています。
それでもアリヤ氏は、AMDが3〜4%の市場シェアを獲得する可能性があると前向きに見ています。この市場全体の規模は、総アドレス可能市場(TAM)で4,000億ドルを超える可能性があるとのことです。
AI分野での製品強化と企業連携
アリヤ氏は「多くの企業が自社内での計算需要やチーム向けの高性能コンピューティングを必要としており、AMDはそれに応えられる」と指摘しています。近年のラックスケールシステムの買収や、ソフトウェア分野の強化も、この分野での存在感を高める要因とされています。
さらにAMDは、台北で開催された「Computex 2025」にて、以下の新製品を発表しました。
- Radeon RX 9060 XT
- Radeon AI Pro R9700
- Threadripper 9000シリーズ
これらの製品は、ゲームやコンテンツ制作、プロフェッショナル用途、さらにはAI開発など、多様なニーズに対応する設計です。特にRadeon AI Pro R9700は、ローカルAI推論やモデルの微調整といったAI用途に特化した性能を提供します。
エイスースとの提携と新イベントに期待
台湾の電子機器メーカーASUSTeK(エイスース)との連携も強化されており、Ryzen AI Pro 300シリーズを搭載した「Expert Pシリーズ Copilot+ PC」の共同開発が進められています。
また、6月に予定されている「AMD Advancing AI」イベントでは、さらなる製品発表や新たなパートナーシップの公表が期待されています。
サウジAI企業との大型契約が追い風に
今月初め、AMDはサウジアラビアのAI企業Humainと、今後5年間で100億ドル規模の提携契約を締結しました。この契約により、HumainのAIインフラ整備が加速される見通しです。
ローゼンブラット証券のアナリストは、この契約を「ポジティブ」と評価しており、米中間の輸出規制が厳しくなる中で、エヌビディアとAMDの双方にとってリスクを分散する効果があると述べています。
アリヤ氏はこの契約の経済的価値を、年間30億〜50億ドル、5年間で最大200億ドルと試算しています。
政治リスクと競争の行方に注意も
一方でアリヤ氏は、トランプ大統領による新たな関税政策が、PCやゲーム、エンタープライズ向けの需要に悪影響を与える可能性があると警戒しています。
また、インテル(INTC)が新経営体制のもとで再びシェアを拡大する可能性もあり、競争環境の変化にも注視が必要です。
AMDの株価は、5月21日の米国市場で1.3%下落しました。AI市場での将来性が注目される一方で、政治的な不透明感やライバル企業の動向にも注意が必要です。
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