本ブログでは9月2日、「スペースXが仕掛ける『超・垂直統合』の衝撃――ロケットから半導体、タービン製造へ広がる野望と将来性」という記事で、スペースX(SPCX)が自社の成長を妨げるボトルネックを次々と内製化する戦略について取り上げました。
その中で注目したのが、AIデータセンター向けの電力不足を背景としたタービンブレード製造への参入構想です。
そして、そのタービン市場で新たな大きな動きが起きました。
GEエアロスペース(GE)は9月8日、タービン部品の鋳造を手掛けるコンソリデーテッド・プレシジョン・プロダクツ(CPP)を117億5,000万ドルで買収すると発表しました。
前回の記事ではスペースXの「内製化」に焦点を当てましたが、今回の買収から見えてくるのは、タービン部品の製造能力そのものを巡る争奪戦です。
GEエアロスペースが先に動いた
スペースXのイーロン・マスクCEOは以前、タービンブレードの鋳造事業への参入可能性に言及していました。
ところが、そのスペースXに先んじてGEエアロスペースがCPPを買収しました。
タービンブレードは高温、高圧という厳しい環境で使われるため、高度な鋳造技術と品質管理が必要です。設備投資を増やせば短期間で大量生産できる部品ではありません。
その製造能力にGEエアロスペースが117億5,000万ドルを投じたことは、タービン部品の供給能力が重要な戦略資産になっていることを示しています。
航空機エンジンだけでなく、AIデータセンターの拡大に伴って発電用タービンの需要まで増えれば、高性能部品を確保する重要性はさらに高まります。
前回の記事で見た「電力のボトルネック」が現実味
前回の記事で取り上げたスペースXの垂直統合戦略では、「必要なものを十分な速度で調達できなければ、自分で作る」という考え方が重要なポイントでした。
タービンブレードへの参入も、この延長線上にあります。
AIの成長にはGPUだけでなく大量の電力が必要です。電力設備の供給がスペースXのAI事業拡大を妨げるのであれば、発電設備の部品まで自ら生産するという発想です。
しかし今回、GEエアロスペースがCPPを買収したことで、スペースXが利用できる既存の生産能力の1つが市場から消えました。
これは前回の記事で指摘した「ボトルネック内製化」を、スペースXがさらに迫られる可能性があることを意味します。
スペースXでも新工場には約4年
自社生産には大きな壁もあります。
ジェフリーズのアナリストであるシーラ・カヤオグル氏は、スペースXが自前の鋳造生産体制を構築するには約4年かかると推定しています。
スペースXほどの資金力と技術力を持つ企業でも数年を要する点は、この市場の参入障壁の高さを示しています。
AIインフラ投資が急拡大する中で4年待つのか、それとも既存企業を買収して時間を買うのか。
GEエアロスペースによるCPP買収によって、スペースXにとってこの選択はより重要になりました。
ハウメット・エアロスペースの価値が浮上
ここで注目したいのが、ハウメット・エアロスペース(HWM)です。
バロンズによると、主要な鋳造企業としてハウメット・エアロスペース、DPC(DPC)、プレシジョン・キャストパーツ、CPPの4社が挙げられています。
CPPはGEエアロスペースに買収され、プレシジョン・キャストパーツはバークシャー・ハサウェイ(BRK.B)の傘下です。
ハウメット・エアロスペースの時価総額は900億ドルを超え、DPCは約60億ドルです。
スペースXが実際に買収に動くかどうかは分かりません。しかし、買収の有無以上に重要なのは、GEエアロスペースとスペースXという巨大企業が高度な鋳造能力を確保しようとしている点です。
供給能力そのものの希少性が高まれば、すでに技術や設備を持つ企業の戦略的価値も高まりやすくなります。
スペースX参入は既存企業への脅威だけではない
マスク氏が鋳造事業への参入可能性を示した後、ハウメット・エアロスペースなどの株価は下落しました。
通常なら、新規参入は既存企業への脅威です。
しかし今回は、スペースXが参入を検討するほど供給が不足していることにも注目する必要があります。
需要が供給を上回っている市場では、新規参入があっても既存メーカーの需要が直ちに減るとは限りません。
さらにスペースXが生産能力を主に自社向けに利用するのであれば、既存メーカーとの直接的な競争も限定される可能性があります。
むしろ航空宇宙と発電の双方から需要が増えることで、限られた鋳造能力の価値が上昇する構図も考えられます。
前回の「超・垂直統合」に新たな意味
9月2日の記事では、スペースXを単なるロケット企業ではなく、自社の成長を妨げるボトルネックを次々と内部に取り込む「超・垂直統合」の企業として考察しました。
今回のGEエアロスペースによるCPP買収は、その見方に新たな意味を加えています。
スペースXが欲しいものをすべて自社で作るのではなく、場合によっては既存の製造能力を買収して取り込むという選択肢も浮上してくるからです。
AI投資の中心はGPUや半導体から、電力インフラ、さらにタービンやその重要部品へと広がっています。
今後はスペースXが自社工場の建設を選ぶのか、残された鋳造企業の買収に動くのかが重要です。
そして投資家にとっては、スペースXそのものだけでなく、ハウメット・エアロスペースなど「AIを動かすための電力インフラ」を支える企業にも注目する必要があります。
情報ソース: Barron’s: “GE Aerospace Buys Turbine Maker in Blow to SpaceX. These Stocks Could Benefit.” (By Al Root, Sept. 9, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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