モデルナ成功、ビオンテック失敗——mRNAがんワクチン競争で明暗が分かれた理由

  • 2026年8月30日
  • 2026年9月16日
  • BS余話

8月24日に公開した前回の記事「mRNA株の次の主戦場は「がん治療」へ!モデルナ成功で始まる勝者と敗者の選別」では、モデルナ(MRNA)とメルク(MRK)が共同開発する個別化mRNAがんワクチンの臨床試験成功を取り上げ、mRNA技術の主戦場が感染症からがん治療へ広がりつつあることを紹介しました。

その際に注目したのが、今後のmRNA関連株は「テーマ全体を買う相場」ではなく、臨床試験の結果や対象となるがん種、提携企業などによって企業ごとの実力が評価される「選別相場」に移っていく可能性です。

その見方を裏付けるニュースが、わずか数日後に出てきました。モデルナ陣営が大きな成果を示した一方、ライバルのビオンテック(BNTX)とロシュ傘下のジェネンテックは、個別化mRNAがんワクチンの臨床試験を中止しました。

同じmRNAがんワクチンでも、早くも明暗が分かれ始めています。

ビオンテックに相次ぐ臨床試験の挫折

ビオンテックとジェネンテックが共同開発する個別化mRNAがんワクチン候補「autogene cevumeran」は、高リスクのステージIIまたはステージIIIの大腸がん患者を対象とした第2相臨床試験が中止されました。

独立データ安全性モニタリング委員会が途中経過を評価した結果、試験を継続しても十分な有効性を示す可能性が低いと判断されたためです。

ビオンテックにとって厳しいのは、今回が最近では2度目となる大きな後退であることです。今年3月には、膀胱がんを対象とした試験についても、標準治療の急速な変化を理由に中止しています。

今回の発表を受け、8月28日の米国市場でビオンテックの米国預託証券は8.4%安の102.1ドルとなり、ロシュの米国株も2.1%下落しました。

新型コロナワクチン市場が縮小するなか、ビオンテックはがん治療を次の成長分野として重視してきました。それだけに、mRNAがんワクチン候補で相次いで試験中止が発生したことは、同社の将来性を考えるうえで重要な材料です。

モデルナとメルクの成功とは対照的

今回の結果は、モデルナとメルクが見せた成功とは対照的です。

両社が共同開発している個別化mRNAがんワクチン候補「intismeran autogene」は、後期臨床試験で良好な結果を示しました。これを受けてモデルナ株は急騰し、mRNAを使った個別化がん治療そのものに対する市場の期待も大きく高まりました。

しかし、ビオンテックの試験中止によって重要な点も明らかになっています。

それは、「mRNAがんワクチン」という同じ技術を使っているからといって、すべての治療法が同じように成功するわけではないということです。

投資家にとっては、mRNA技術を持っているかどうかだけで企業を評価する時代が終わりつつあることを意味します。

成功と失敗を分ける「がん種」と治療戦略

なぜモデルナは成功し、ビオンテックは苦戦したのでしょうか。

大きな理由の1つとして考えられるのが、対象となるがんの違いです。

がんは1つの病気ではなく、がん種によって免疫環境や治療への反応は大きく異なります。ビオンテックの最高医療責任者であるÖzlem Türeci氏も、難治性で免疫抑制的な腫瘍が、なぜ免疫療法に抵抗するのかを理解することが重要だと指摘しています。

さらに、がん治療では標準治療自体が急速に進歩しています。

臨床試験を開始した時点では適切だった治療方法や比較対象が、数年後には時代遅れになることもあります。ビオンテックが膀胱がん試験を中止した理由は、この難しさを象徴しています。

mRNAがんワクチンで成功するには、mRNA技術だけでは不十分です。対象となるがん種、患者層、投与するタイミング、既存治療との組み合わせなどを総合的に設計する必要があります。

モデルナとメルクの提携が持つ強み

こうした視点で見ると、モデルナとメルクの提携の重要性が改めて浮かび上がります。

メルクは世界最大級のがん免疫治療薬「キイトルーダ」を持っています。モデルナの個別化mRNAワクチンとキイトルーダを組み合わせることで、患者の免疫にがん細胞の特徴を認識させながら、免疫チェックポイント阻害薬によって免疫反応を高める戦略を取ることができます。

がん治療では、1つの薬だけですべてを解決するのではなく、複数の治療法を組み合わせることが重要になるケースが少なくありません。

mRNA技術に加えて、メルクが持つがん治療の臨床開発力や販売基盤を活用できることは、モデルナにとって大きな競争力になる可能性があります。

ビオンテックはまだ競争から脱落していない

もっとも、今回の失敗だけでビオンテックがmRNAがんワクチン競争から脱落したと判断するのは早計です。

ビオンテックとジェネンテックは、膵管腺がんを対象として「autogene cevumeran」を多剤併用療法の一部として評価する別の試験を継続しています。

膵臓がんは進行が速く、治療が難しいがんの1つです。この分野で有効性を示すことができれば、ビオンテックのmRNA技術に対する評価が再び変わる可能性があります。

Türeci氏も「mRNAは当社の腫瘍学戦略の重要な柱」としており、同社がmRNAがん治療そのものから撤退するわけではありません。

mRNA関連株は本格的な選別相場へ

前回の記事では、モデルナの臨床試験成功を受け、mRNA関連株が「テーマ買い」から「選別投資」へ移る可能性を取り上げました。

今回のビオンテックの試験中止は、その変化をさらに鮮明にしています。

モデルナの成功は、個別化mRNAがんワクチンという技術が実際の治療に利用できる可能性を示しました。一方、ビオンテックの失敗は、その成功がすべてのがん種やすべての企業に広がるわけではないことを示しています。

今後は、どのがん種を狙っているのか、臨床試験がどこまで進んでいるのか、有力ながん治療薬との組み合わせを持っているのか、といった違いが企業価値を左右する可能性があります。

mRNAがんワクチン市場の勝者はまだ決まっていません。しかし、モデルナの成功とビオンテックの失敗が相次いだことで、mRNAという技術そのものへの期待から、本当に成果を出せる企業を見極める段階へ移ったことは明確になりつつあります。

情報ソース: Barron’s: “BioNTech Stock Falls on Cancer Vaccine Setback Days After Moderna’s Big Win” (By Mackenzie Tatananni, Aug 28, 2026)

※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。

🎧この記事は音声でもお楽しみいただけます。AIホストによる会話形式で、わかりやすく、さらに深く解説しています。ぜひご活用ください👇

最新情報をチェックしよう!