mRNA株の次の主戦場は「がん治療」へ!モデルナ成功で始まる勝者と敗者の選別

  • 2026年8月24日
  • 2026年8月24日
  • BS余話

2026年8月、mRNA関連株を取り巻く環境が大きく変わり始めています。

前回の記事「モデルナ株が一時130%急騰 「がんワクチン」第3相成功でmRNAに新時代」では、モデルナ(MRNA)とメルク(MRK)が共同開発する個別化mRNAがんワクチン「intismeran autogene(インティスメラン・オートジェン)」が、メラノーマを対象とした第3相試験で良好な結果を示したことを取り上げました。

モデルナ株が急騰した背景や、キイトルーダとの併用療法、さらに肺がんや腎臓がんなど他のがん種へ広がる可能性について詳しく見てきました。

今回はそこから一歩引いて、この成功がmRNA業界全体に何を意味するのかを考えます。

新型コロナによって一躍脚光を浴びたmRNA技術は、「感染症ワクチン」という第1幕を終え、「がん治療」という第2幕へ入り始めています。ただし、その恩恵をすべてのmRNA企業が受けられるわけではありません。

今後は企業ごとのパイプラインや資金力、提携戦略によって勝者と敗者がより明確に分かれていく可能性があります。

モデルナの成功はmRNA業界の「概念実証」

前回取り上げたモデルナとメルクの第3相試験で重要なのは、モデルナ1社にとっての好材料というだけではありません。

mRNA技術を患者ごとのがん細胞に合わせて設計する個別化治療が、実際のがん治療で利用できる可能性が高まったことに大きな意味があります。

新型コロナワクチンでは、mRNAが短期間で設計・製造できる技術であることが証明されました。

今度は、その特徴を利用して患者一人ひとりの腫瘍に存在する遺伝子変異を解析し、それを標的とするワクチンを作るという、より高度な利用方法が現実味を帯びています。

モデルナでは非小細胞肺がんや腎細胞がんなどでも試験が進められています。これらのがん種でも有効性が確認されれば、mRNAがんワクチンは単一製品ではなく、複数のがん治療へ展開できるプラットフォームへ成長する可能性があります。

モデルナの時価総額が短期間で約440億ドル増加し、ウィリアム・ブレアやモルガン・スタンレーなどが相次いで投資判断を引き上げた背景にも、こうした将来性への期待があります。

一方で感染症mRNA市場は急速に縮小

がん治療への期待が高まる一方、従来の主力だった感染症ワクチン市場では逆の動きが起きています。

新型コロナワクチン市場は、パンデミック期には約500億ドル規模まで拡大しましたが、現在は約70億ドルまで縮小しています。

これはモデルナだけでなく、ビオンテック(BNTX)やファイザー(PFE)など、コロナワクチンで大きな売上高を獲得した企業にとって重大な変化です。

さらに、mRNA技術を使えばあらゆる感染症ワクチンを容易に開発できるわけではないことも明らかになってきました。

モデルナではサイトメガロウイルス(CMV)やノロウイルス向けプログラムが期待通りに進んでいないほか、インフルエンザと新型コロナの混合ワクチンでも後期試験のやり直しが必要になるなど、開発上の壁が表面化しています。

mRNAという技術そのものの優位性と、個々の新薬候補が臨床試験で成功することは別問題です。

政府支援に依存するビジネスモデルにもリスク

感染症分野では政治・規制リスクも無視できません。

2025年には米国保健福祉省によって22件のmRNA関連連邦契約が打ち切られました。

パンデミック期のmRNA産業は、政府によるワクチン購入や研究開発支援によって急速に拡大しました。しかし政策の方向性が変われば、政府需要に依存する企業の収益構造も大きな影響を受けます。

この点でも、がん治療への進出には重要な意味があります。

がん治療は新型感染症の流行や政府の緊急調達に依存する市場ではありません。有効性の高い治療法を確立できれば、継続的な医療需要を対象としたビジネスへ転換できます。

モデルナにとってmRNAがんワクチンは、単なる新製品ではなく、コロナ依存から脱却するための事業構造転換でもあります。

ビオンテックも「ポスト・コロナ」でがんへ向かう

mRNA業界でがん治療へ軸足を移しているのはモデルナだけではありません。

ビオンテックも、パンデミック後の成長戦略としてオンコロジー分野への投資を強化しています。

膀胱がんやすい臓がんなど複数の領域で開発を進めながら、治療環境や競争状況に応じて研究開発資源を再配分しています。

ここから見えてくるのは、mRNA企業の競争軸そのものが変わりつつあることです。

これまでは「mRNA技術を持っている企業」が評価されましたが、今後は「mRNA技術をどの疾患に適用し、どれだけ早く臨床開発と商業化につなげられるか」が重要になります。

技術力だけではなく、パイプラインを選別する経営判断も企業価値を大きく左右します。

モデルナとメルクの提携が大きな参入障壁に

モデルナにとって大きな強みとなっているのが、メルクとの提携です。

メルクは世界最大級のがん免疫治療薬「キイトルーダ」を持っており、モデルナはmRNAの設計・製造技術を持っています。

がん治療では新薬単独より、既存の有力治療薬との併用によって治療効果を高める戦略が重要になっています。

そのため、モデルナがキイトルーダという世界的な治療基盤と組み合わせて開発を進められることは、後発企業にとって簡単には追いつけない優位性となる可能性があります。

これからのmRNAがん治療競争では、技術力だけでなく「誰と組んでいるのか」も重要な投資判断材料になります。

小型mRNA企業にはM&Aという可能性

業界の二極化が進めば、M&Aも活発化する可能性があります。

アークトゥルス・セラピューティクス(ARCT)のように、独自技術や承認済み製品を持つ小規模バイオ企業は、大手製薬会社にとって技術を短期間で獲得する手段となります。

大手製薬会社がmRNA技術をゼロから構築するには巨額の研究開発費と長い時間が必要です。

一方、すでに技術基盤や臨床パイプラインを持つ企業を買収すれば、開発期間を短縮できる可能性があります。

今後mRNAがん治療の商業的価値がさらに明確になれば、技術や有望なパイプラインを巡る買収競争が起きる可能性も注目されます。

mRNA株は「テーマ買い」から「選別投資」へ

前回の記事で取り上げたモデルナの第3相試験成功は、mRNA技術に再び市場の注目を集めました。

しかし、パンデミック期のように「mRNA関連株」というだけで幅広い企業が評価される状況とは大きく異なります。

感染症市場は縮小し、臨床試験の難しさも明らかになり、政治・規制リスクも存在します。

その一方で、がん治療という巨大市場では新しい成長機会が生まれています。

これから重要になるのは、mRNAという技術そのものではなく、各社がどの疾患を狙っているのか、臨床試験はどこまで進んでいるのか、誰と提携しているのか、そして製品化まで耐えられる資金力を持っているのかという点です。

モデルナの成功は、mRNA業界全体の復活を意味するものではありません。むしろmRNA企業の本格的な選別が始まったサインと考えることができます。

感染症バブルを終えたmRNA産業が、がん治療を中心とする新しい成長産業へ転換できるのか。

前回の記事で見たモデルナの急騰は、その巨大な変化の始まりなのかもしれません。今後はモデルナだけでなく、ビオンテックや小型mRNA企業を含め、どの企業が「ポスト・コロナ」の勝者となるのかを見極めることが重要になります。

情報ソース: Barron’s: “ Can mRNA Cure Cancer? Inside the Pipeline Risks for Biotech’s Biggest Players” (By Mackenzie Tatananni, Aug 21, 2026)

※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。

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