エヌビディアに挑む巨大チップ セレブラスQ2決算で見えた期待と弱点

  • 2026年8月13日
  • 2026年8月13日
  • BS余話

セレブラス・システムズ(CBRS)が8月12日の米国市場終了後に発表した第2四半期決算は、売上高の大幅な伸びと赤字縮小が同時に進む力強い内容となりました。

一方、好調な決算内容とは対照的に、株価は決算発表後の時間外取引で大きく下落しました。

なぜ業績改善が確認されたにもかかわらず、投資家は売りで反応したのでしょうか。

今回の決算からは、セレブラスが持つ独自技術の強みだけでなく、特殊な会計処理や顧客戦略、さらにエヌビディア(NVDA)が圧倒的なシェアを握るAI半導体市場で同社がどのようなポジションを狙っているのかが見えてきます。

第2四半期決算は売上成長と赤字縮小が鮮明に

セレブラスの第2四半期コア売上高は2億1,000万ドルとなり、前年同期比で約2倍に拡大しました。市場予想の1億9,100万ドルも上回っています。

また、調整後営業損失は3,400万ドルとなり、前年同期の4,400万ドルの赤字から改善しました。市場では6,300万ドル程度の営業損失が予想されていたため、利益面では予想以上の改善となっています。

さらに、2026年通期の調整後営業利益率見通しを約-18%へ上方修正しました。第1四半期決算を発表した6月時点では約-30%を見込んでいたため、わずか数カ月で赤字幅の縮小が大きく進んだことになります。

一方、受注残は約250億ドルで前四半期からほぼ横ばいでした。

株価は決算発表日の通常取引で12%上昇しましたが、決算発表後の時間外取引では一転して17%下落しました。

市場が警戒した「コア売上高」の中身

今回の決算で最も注意したいのが、セレブラスが独自に示している「コア売上高」です。

実際の売上高は1億8,000万ドルでしたが、そこからパススルー収益に関する1,450万ドルを差し引き、一方で顧客に付与した株式ワラントの償却に関連する4,430万ドルを加えることで、コア売上高2億1,000万ドルを算出しています。

この計算方法そのものが直ちに問題というわけではありませんが、一般的な売上高とは異なるため、投資家にとって業績の実態を判断しにくくなる側面があります。

特に株式ワラントに関連する金額を調整して売上高を大きく見せる形になるため、「本来の事業成長をどこまで正確に表しているのか」という警戒感が生まれやすくなります。

決算内容自体は良好だったものの、この会計上の複雑さが時間外取引での急落につながった一因と考えられます。

最大の武器は巨大チップ「WSE」

セレブラス最大の特徴は、独自開発した「Wafer-Scale Engine(WSE)」です。

一般的な半導体では、300ミリメートルのシリコンウェハーから多数の小さなチップを切り出して使用します。しかしWSEでは、ウェハーそのものを巨大な1枚のプロセッサとして利用します。

AI処理では、計算能力だけでなく、プロセッサとメモリの間で大量のデータをどれだけ高速に移動できるかが重要です。

セレブラスは計算処理とメモリを巨大な1枚のシリコン上に配置することで、従来の複数GPUを接続したシステムで発生しやすいデータ転送のボトルネックを減らそうとしています。

特に生成AIの推論処理では、巨大なモデルから大量の回答を高速に生成する能力が求められるため、セレブラスのアーキテクチャが強みを発揮する可能性があります。

エヌビディアがGPU同士を高速ネットワークで接続する方向へ進んでいるのに対し、セレブラスは「最初から巨大な1枚のチップを作る」という全く異なるアプローチを採用しています。

巨大テック企業を巻き込むワラント戦略

セレブラスは以前、UAE関連企業への売上依存度の高さが投資家からリスクとして意識されていました。

しかし現在は、オープンAI、アマゾン(AMZN)、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)などとの取引を拡大し、顧客構成の分散を進めています。

興味深いのは、一部の大型顧客にセレブラス株を取得できるワラントを付与している点です。

ワラントはセレブラス側にとって一定のコストとなる一方、顧客側にとってはセレブラスの企業価値が上昇すれば経済的なメリットを得られる仕組みになります。

つまり単純にAIチップを販売するだけでなく、顧客自身がセレブラスの成長にメリットを持つ関係を作り出しているわけです。

さらにセレブラスは、既存のGPUやAIチップを全面的に置き換えるのではなく、推論など特に高速処理が必要な部分でWSEを組み合わせる戦略を取っています。

この補完型の導入方法であれば、巨大IT企業にとって既存システムを全面刷新する必要がなく、採用のハードルを下げることができます。

250億ドルの受注残は大きな成長余地を示す

今回、受注残が約250億ドルから増加しなかったことは、市場の期待を下回った要因の一つです。

ただし、第2四半期のコア売上高が2億1,000万ドルであることを考えると、250億ドルという受注残は依然として非常に大きな規模です。

オープンAIとの3~5年の契約などが受注残の中心となっており、一部には契約拡大のオプションも含まれています。

すべてが確実に売上高へ転換されるとは限りませんが、新興AI半導体企業としては数年間にわたる売上の見通しを持っている点は大きな強みです。

今後は受注残そのものの大きさよりも、それをどの程度のスピードで実際の売上高と利益に変えていけるかが重要になります。

セレブラスはエヌビディアの代替ではなく補完勢力になる可能性

セレブラスは上場後の値動きが非常に激しく、1日の株価変動率が3%を超える日が多い高ボラティリティ銘柄です。

会計指標の複雑さやワラントによる希薄化リスク、顧客集中、巨額受注残の実現性など、投資家が注意すべきポイントも少なくありません。

それでも、WSEという明確に差別化された技術、急速に改善する利益率、そしてオープンAIやアマゾンなど大手企業との関係拡大は注目に値します。

セレブラスがエヌビディアのGPUを全面的に置き換える可能性は現時点では高くありません。

むしろAI推論市場が拡大するなかで、GPUが苦手とする特定の処理を高速化する「補完型アクセラレーター」として存在感を高めるシナリオの方が現実的です。

今回のQ2決算は、セレブラスが単なる話題性の高いAIチップ企業から、売上成長と収益改善を伴う事業フェーズへ移り始めていることを示しました。

今後の焦点は、250億ドルの受注残をどこまで着実に売上へ転換し、独自のWSEアーキテクチャをAI推論市場の標準的な選択肢の一つへ育てられるかにあります。

情報ソース: Barron’s: “Cerebras Systems Reports Solid Earnings. The Stock Is Plunging.” (By Adam Levine, Aug. 12, 2026)

※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。

*過去記事「【AI半導体の新星】セレブラス熱狂的IPOの裏に潜む「3つの巨大なリスク」

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