前回の記事「レディット株が好決算でも20%急落した理由 米国ユーザー減少とAI収益化の限界」では、レディット(RDDT)が発表した2026年第2四半期決算と、好業績にもかかわらず株価が急落した背景を取り上げました。
市場が警戒したのは、売上高や利益ではなく、収益性の高い米国市場でユーザー数が減少したことと、期待されていたAIデータライセンス事業に新たな進展が見られなかったことです。
しかし、短期的なユーザー成長の鈍化だけで、レディットの長期的な企業価値を判断するのは早計かもしれません。
同社が保有する膨大な人間の会話データは、生成AIの性能向上に欠かせない資産になりつつあります。今回は前回の記事の続編として、レディットが広告依存の掲示板サイトから、AI時代のデータインフラ企業へ進化できる可能性を分析します。
ユーザー数よりも収益の質が重要な段階へ
前回の記事で説明した通り、レディットのデイリーアクティブユーザー数は世界全体では増加しているものの、重要な米国市場では前四半期から減少しました。
一方、米国ユーザー1人当たりの収益は大きく伸びています。レディットは広告商品の改善やターゲティング精度の向上により、既存ユーザーから得られる収益を増やすことに成功しています。
これは、同社の成長戦略が単純なアクセス数の拡大から、利用者の購買意欲やエンゲージメントを収益へ変える段階に入ったことを示しています。
ユーザー数の減少が長期化すれば広告事業の成長を抑える要因になりますが、現在のレディットは「利用者の量」だけでなく、「利用者からどれだけ価値を生み出せるか」が評価される企業へ変化しつつあります。
AI検索は脅威であると同時に事業機会
レディットへのアクセスを脅かしているのが、アルファベット(GOOGL)傘下のグーグルが導入したAI Overviewsです。
検索結果の上部にAIが回答を表示すれば、ユーザーはレディットのページを訪問しなくても必要な情報を得られます。レディットの投稿がAI回答の材料として利用される一方、情報を生み出したレディットにはアクセスが戻らないという問題が発生します。
しかし、この構造はレディットにとって脅威だけではありません。
AI企業が高品質な回答を生成するためには、実際の人間が交わした会話や、商品を利用した感想、専門的な助言、失敗談などが必要です。AIがレディットへの流入を奪うほど、AI企業にとってレディットのデータが重要になるという逆説的な関係が生まれています。
レディットがAI検索によるアクセス減少を、データ利用料の増加で補えるかが今後の焦点です。
レディットの会話データは「現代の石油」
スティーブ・ハフマンCEOは、レディットに蓄積されたコンテンツを「現代のインターネットの石油」と表現しています。
レディットの強みは、文章の量だけではありません。投稿やコメントに対してUpvoteとDownvoteが行われるため、どの回答が利用者から支持され、どの回答が否定されたのかという評価情報も蓄積されています。
これは、AIモデルに人間の価値判断や回答の有用性を学習させるうえで重要なデータです。
グーグルとオープンAIは、それぞれ年間約6,000万ドル規模を支払い、レディットのデータをAI開発に利用していると推測されています。ただし、現在のライセンス収入はレディットの総収益に占める割合が小さく、企業価値を根本から変える規模には達していません。
今後の契約更新で利用料をどこまで引き上げられるかが重要になります。
契約額が5億5,000万ドルに拡大する可能性
ウェルズ・ファーゴのアナリストは、AI企業との契約更新によって、レディットのデータライセンス収入が年間5億5,000万ドル規模へ拡大する可能性があると予測しています。
この事業の最大の魅力は、利益率の高さです。
広告収入を増やすには、営業担当者の拡充、広告配信システムへの投資、コンテンツ管理などの費用が必要です。一方、すでに蓄積されたデータの利用権を提供するライセンス事業は、契約額が増えても追加コストが大幅に増えるとは限りません。
仮に数億ドル規模の増収が実現すれば、その多くが営業利益やキャッシュフローの増加につながる可能性があります。
レディットが広告企業から高利益率のデータ企業へ変われば、市場が同社を評価する基準も大きく変化します。
アンソロピック提訴が示すデータ防衛戦略
レディットは、保有するデータを無断で利用するAI企業に対して法的な対応を強めています。
同社は2025年6月、AI開発企業のアンソロピックを提訴しました。特徴的なのは、主な争点を著作権侵害ではなく、レディットのユーザー規約に対する違反とした点です。
ユーザーが投稿した膨大な文章について、レディット自身が個別に著作権を主張することは容易ではありません。しかし、利用規約に反してデータを自動収集したのであれば、契約上の違反として責任を追及できます。
この訴訟は、単に損害賠償を求めるものではなく、レディットのデータを利用するには正規のライセンス契約が必要だとAI業界へ示す意味を持ちます。
無断利用を防ぐ仕組みが確立されれば、レディットはグーグルやオープンAIとの契約更新交渉でも、より強い立場に立てます。
株価下落で成長期待は大きく後退
レディット株は上場来高値から約48%下落し、今後12カ月の予想利益に基づく予想PERは、以前の約80倍から28.5倍まで低下しています。
この評価低下には、米国ユーザー数の減少や検索流入への依存、AIデータ事業の停滞に対する懸念が反映されています。
ただし、データライセンス収入が本格的に拡大するシナリオは、現在の株価に十分織り込まれていない可能性があります。
もちろん、契約額が増えず、米国ユーザー数の減少も続けば、28.5倍という予想PERにも割高感が残ります。反対に、高利益率のライセンス収入が数億ドル規模へ成長すれば、利益の急拡大によって現在の評価は割安だったと判断される可能性があります。
レディットはAI時代のインフラ企業になれるか
前回の記事で取り上げた株価急落は、レディットの現在の業績に対する失望ではなく、将来の成長率に対する不安を反映したものでした。
しかし、レディットの真の企業価値を判断するには、広告収入や四半期ごとのユーザー数だけでなく、膨大な人間の会話データをどれだけ収益化できるかを見る必要があります。
AI検索はレディットへのアクセスを減らす脅威ですが、同時にレディットのデータ価値を高める要因でもあります。
今後の注目点は、グーグルやオープンAIとの契約更新額、新たなAI企業とのライセンス契約、アンソロピックとの訴訟、そして米国ユーザー数の回復です。
人間によるリアルな会話と評価データを持つレディットが、それを守りながら高利益率の収益へ転換できれば、同社は単なるソーシャルメディアではなく、AIエコシステムを支えるデータインフラ企業へ進化する可能性を秘めています。
情報ソース: Barron’s: “ Reddit Is Due for Big AI Bump. The Earnings Selloff Is a Buying Opportunity.” (By Angela Palumbo and Nate Wolf, July 31, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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