AI時代に売られるソフトウェア株
人工知能(AI)の急速な進化により、テック業界の勢力図は大きく変わりつつあります。特に市場で厳しい見方をされているのが、サービスナウ(NOW)やセールスフォース(CRM)に代表されるエンタープライズ・ソフトウェア企業です。
投資家の間では、「これまで企業が使ってきた主要なソフトウェア機能は、いずれAIに置き換えられるのではないか」という懸念が広がっています。その結果、ソフトウェア株全体には強い売り圧力がかかってきました。
しかし、米投資メディア『バロンズ』が2026年7月1日に報じた内容を見ると、現在の市場の悲観はやや行き過ぎている可能性があります。株価水準や過去のバリュエーション、企業の顧客基盤を冷静に見れば、むしろ長期投資家にとっては好機が生まれているとも考えられます。
歴史的な割安水準に沈むソフトウェア株
まず注目したいのは、ソフトウェアセクター全体の株価水準です。代表的な指標であるiShares Expanded Tech-Software Sector ETF(IGV)は、2025年9月22日につけた過去最高値117.79ドルから20%下落しています。
これは、市場がソフトウェア企業の将来性に対してかなり慎重になっていることを示しています。ただし、この一律の下落によって、優良企業のバリュエーションは過去平均と比べて大きく低下しています。
サービスナウの今後12ヶ月の予想PERは22.9倍です。過去5年間の平均PERが55.4倍だったことを考えると、評価は半分以下に切り下がっています。
セールスフォースのフォワード予想PERは11.1倍です。こちらも過去5年平均の29.7倍から大きく低下しており、成長株というより割安株に近い評価になっています。
つまり市場は、これらの企業が今後ほとんど成長できない、あるいはAIによって既存ビジネスが大きく侵食されるという前提で株価をつけているように見えます。しかし、その前提が本当に正しいのかは慎重に考える必要があります。
顧客基盤という強固な防壁
AIがどれほど進化しても、企業が日々の業務で使っている基幹ソフトウェアをすぐに入れ替えることは簡単ではありません。
サービスナウやセールスフォースのような企業は、顧客企業の業務プロセスに深く組み込まれています。営業管理、顧客管理、業務フロー、社内承認、ITサービス管理など、一度導入されたシステムは企業活動の中核に入り込みます。
そのため、多少AIが便利になったからといって、既存システムを一気に廃止し、未成熟なAIツールへ全面的に切り替える判断は簡単ではありません。企業経営では「壊れていないものを無理に直さない」という考え方が根強くあります。
この顧客との長期的な関係性こそ、エンタープライズ・ソフトウェア企業にとって見えにくい資産です。AIは脅威である一方、既存の大手ソフトウェア企業が自社サービスにAIを組み込むことで、むしろ競争力を高める可能性もあります。
現在のPER水準を考えると、これらの企業が急成長を続けなくても、安定的に事業を維持し、緩やかに成長するだけで株価の見直し余地はあると言えます。
パンデミック特需の反動からの回復
もう一つ重要なのが、ソフトウェア支出のサイクルです。
2020年から2021年にかけて、企業はリモートワーク対応やクラウド化を急ぐため、ソフトウェア投資を大きく増やしました。これはパンデミックによる特需でした。
その後、2022年から2024年にかけては、過剰投資の反動で新規ソフトウェア支出が鈍化しました。市場はこの減速を、AIによる需要奪取やソフトウェア業界の構造的な衰退と受け止めた可能性があります。
しかし、別の見方をすれば、これは特需の反動が一巡する過程だったとも考えられます。実際、足元では新規の年間繰り返し収益(ARR)の成長が再び加速し始めている兆候もあります。
仮に2026年後半から2027年にかけて、ARR成長の安定化や再加速が明確になれば、市場の「AIによるソフトウェア終焉論」は後退する可能性があります。その場合、過度に低く評価されていたソフトウェア株には見直し買いが入りやすくなります。
投資家が見るべきポイント
7月1日の終値では、サービスナウ、セールスフォース、チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズ(CHKP)の3社が、それぞれ6.6%、4.2%、2.2%上昇する場面もありました。これは、市場の一部がソフトウェア株の割安感に再び注目し始めている可能性を示しています。
もちろん、AIがソフトウェア企業にとって大きな脅威であることは間違いありません。AIによって一部の機能が代替され、価格競争が強まるリスクはあります。
一方で、既存の大手ソフトウェア企業には、顧客基盤、業務への深い組み込み、長期契約、ブランド、販売網といった強みがあります。市場がAIリスクだけを強く織り込み、こうした強みを過小評価しているなら、現在の株価水準は長期投資家にとって魅力的な入口になる可能性があります。
重要なのは、「AIが来るからソフトウェア株は終わり」と単純に決めつけないことです。むしろ、AIを自社サービスに取り込み、顧客に追加価値を提供できる企業は、次の成長局面に進む可能性があります。
現在のソフトウェア株は、恐怖によって売られ過ぎているのか、それとも本当に構造的な衰退に向かっているのか。その答えは、今後のARR成長、顧客維持率、AI機能の収益化に表れてくるはずです。
情報ソース: Barron’s: “Software Stocks Face an ‘AI Death Knell.’ Why Guggenheim Says It’s Time to Buy.” (By Angela Palumbo, July 01, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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