量子コンピューティング業界は、長く「将来の夢」として語られてきました。しかし、足元ではクラウド経由で量子コンピューターを利用できる環境が整い始め、投資家の関心も「いつ実用化するのか」「どの企業が商業化に近いのか」という段階へ移っています。
その中で注目されている企業の一つが、米カリフォルニア州に本社を置くリゲッティ・コンピューティング(RGTI)です。同社は量子コンピューターのハードウェア開発を手がける企業で、超伝導量子ビットを使ったシステムの開発を進めています。
同社は5月11日の米国市場終了後に第1四半期決算を発表しました。今回の決算は、売上の成長と技術開発の進展を示す一方で、研究開発費の重さや資金面の課題も改めて浮き彫りにする内容でした。
第1四半期決算のポイント
リゲッティの第1四半期売上高は440万ドルとなり、前年同期比で約3倍に増加しました。市場予想の409万ドルも上回っており、同社の技術やサービスが少しずつ売上につながり始めていることを示しています。
調整後1株当たり損失は4セントで、アナリスト予想と一致しました。売上規模はまだ小さいものの、予想を上回る売上成長を示した点は前向きに評価できます。
技術面では、同社が1月に提供を延期していた108量子ビットの「Cepheus-1-108Q」システムについて、4月に提供を開始したことが明らかになりました。このシステムは、Amazon Braket、Microsoft Azure Quantum、同社の自社クラウドサービス上で利用可能になっています。
量子コンピューターが主要クラウドサービス上で稼働していることは重要です。研究機関や企業が実際にアクセスできる環境が整うことで、単なる実験段階から商業利用に向けた検証段階へ進んでいると見られるためです。
技術ロードマップは「量」より「質」へ
今回の発表で特に注目したいのは、リゲッティが量子ビット数の拡大だけを追うのではなく、性能や安定性を重視する姿勢を強めている点です。
同社は今年後半に、2量子ビットゲート忠実度の中央値99.5%の達成を目指すとしています。量子コンピューターでは、単に量子ビット数を増やせばよいわけではありません。エラー率を抑え、計算の正確性を高めることが、実用化に向けて非常に重要です。
過去の量子コンピューティング業界では、量子ビット数の多さが注目されがちでした。しかし、ビジネス利用を考えると、安定して使えること、エラーを抑えられること、既存のクラウド環境と連携できることがより重要になります。
リゲッティは、かつて2024年〜2025年としていた1000量子ビット級システムの目標時期を、今後3〜4年以内へと見直しています。一見すると計画の後退にも見えますが、これは過度な宣伝よりも、現実的な技術進歩を重視する姿勢への転換と捉えることもできます。
量子コンピューティングの実用化には、派手なマイルストーンよりも、エラー率の改善やシステムの安定稼働が欠かせません。その意味で、同社の戦略は「量子ビット数の競争」から「実用性能の競争」へ移行していると考えられます。
英国投資が示す長期戦略
リゲッティは、英国での量子コンピューティング開発を加速させるため、1億ドルを投資する計画も明らかにしました。今後3〜4年以内に、1000物理量子ビット以上を搭載した新システムを稼働させる計画です。
英国は量子技術の研究基盤が厚く、政府や大学、研究機関との連携も期待できます。量子コンピューティングは国家安全保障や産業競争力にも関わる分野であり、米国内だけでなく海外の研究拠点を強化することには大きな意味があります。
この投資は、単なる海外展開ではなく、人材確保、研究開発、産学官連携を含めた長期的な成長戦略の一部と見るべきです。
財務面では資金繰りが重要な焦点
一方で、財務面には注意が必要です。第1四半期の営業損失は2600万ドルとなり、前年同期の2200万ドルから拡大しました。そのうち約2000万ドルが研究開発費に充てられています。
量子コンピューターのような最先端ハードウェアを開発する企業にとって、研究開発費が大きくなるのは避けにくい面があります。現段階では、売上よりも技術開発に多額の資金を投じるフェーズにあるためです。
ただし、手元資金には注意が必要です。負債がゼロである点は安心材料ですが、現金・現金同等物および売却可能投資は569万ドルにとどまっています。研究開発を継続するには、今後の資金調達が重要な課題になります。
量子コンピューティング企業は、将来性が大きい一方で、商業化までに時間がかかる可能性があります。そのため、投資家は技術ロードマップだけでなく、資金調達力や開発継続能力も慎重に見る必要があります。
株価下落は業績失望だけではない
決算発表後の5月12日の米国市場でリゲッティの株価は7%下落し、19.07ドルとなりました。同じ量子コンピューティング関連では、イオンキュー(IONQ)が1.8%、ディーウェーブ・クオンタム(QBTS)が7%下落しています。
この日の市場では、ナスダック100指数も0.7%下落しており、ハイテク株全体が軟調でした。そのため、リゲッティの株価下落は、同社固有の失望だけでなく、量子関連株やハイグロース株全体への売り圧力も影響したと考えられます。
売上高が市場予想を上回り、技術開発も進展していることを踏まえると、今回の決算を単純にネガティブと判断するのは早計です。ただし、赤字拡大と資金面の不安が投資家心理を冷やした可能性はあります。
リゲッティの将来性
リゲッティの魅力は、量子コンピューターのハードウェア開発を自社で進め、クラウド経由で実際に利用できる環境を整えている点にあります。Amazon BraketやMicrosoft Azure Quantumで稼働していることは、同社の技術が外部の利用者に開かれた段階に入っていることを示します。
一方で、同社はまだ売上規模が小さく、研究開発費の負担も大きい企業です。今後の焦点は、技術指標の改善が実際の顧客利用や売上拡大につながるかどうかです。
特に注目すべきポイントは、2量子ビットゲート忠実度99.5%の達成、108量子ビットシステムの利用拡大、英国投資による1000物理量子ビット級システムの開発、そして資金調達の進展です。
量子コンピューティングは、短期的に大きな利益を生み出す段階にはまだ達していません。しかし、将来的に創薬、金融、材料開発、物流最適化などの分野で活用が進めば、大きな市場を形成する可能性があります。
リゲッティは、その実用化に向けて、派手な量子ビット数の発表よりも、性能改善とクラウド展開を重視する現実的な道を選び始めています。
今回の決算は、同社がまだ赤字と資金繰りの課題を抱える一方で、量子コンピューティングの商業化に向けた基盤を着実に整えていることを示す内容でした。投資家にとっては、短期的な株価変動に左右されるよりも、技術進展、資金調達、顧客利用の拡大を継続的に確認することが重要です。
情報ソース: Barron’s: “Rigetti Doubles Down on Quantum Roadmap. Flashy Milestones Are Out, Performance Is In.” (By Mackenzie Tatananni, May 12, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事「量子コンピュータ株の明暗 イオンキュー、ディーウェーブ、リゲッティを比較」
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