ディーウェーブ・クオンタム(QBTS)は、5月12日のマーケット開始前に2026年第1四半期決算を発表しました。
今回の決算は、表面的な数字だけを見ると厳しい内容です。売上高は前年同期比で大きく減少し、損失も拡大しました。しかし一方で、受注高は急増しており、同社の事業が新たな段階に入っている可能性も示しています。
量子コンピューティング関連株は、期待先行で株価が大きく動きやすい分野です。そのため、単に売上や赤字だけを見るのではなく、受注、顧客層、技術ロードマップ、資金消費の意味を整理することが重要です。
第1四半期決算の概要
ディーウェーブ・クオンタムの第1四半期売上高は286万ドルとなり、前年同期比で81%減少しました。アナリスト予想の420万ドルも下回っており、売上面では市場の期待に届かなかった形です。
一方で、今回の決算で最も注目すべき点は受注高です。受注高は前年同期の160万ドルから3,340万ドルへと急増しました。売上高が大きく落ち込む一方で、将来の売上につながる可能性がある受注が大幅に増えたことは、今回の決算を評価するうえで重要なポイントです。
この受注高には、フロリダ・アトランティック大学による2,000万ドルの量子システム購入と、非公開のフォーチュン100企業との1,000万ドル規模の2年契約が含まれています。大学機関だけでなく、大企業との契約が含まれている点は、量子技術の商用利用に向けた関心が高まっていることを示しています。
赤字拡大は研究開発投資の増加が主因
利益面では、同社の赤字は拡大しました。研究開発費は前年同期の2倍以上となる2,580万ドルに増加し、調整後純損失は3,280万ドルとなりました。前年同期の調整後純損失は610万ドルだったため、損失幅は大きく広がっています。
調整後粗利益も前年同期比86%減の200万ドルにとどまりました。さらに、1月に実施したクアンタム・サーキッツの買収に関連して、910万ドルの非経常費用も発生しています。
この数字だけを見ると、収益性の悪化が目立ちます。しかし、ディーウェーブ・クオンタムは現在、研究開発と事業拡大を優先する段階にあります。量子コンピューターはまだ商用化の初期段階にあるため、短期的な利益よりも、技術開発と顧客獲得に資金を投じている局面と見ることもできます。
売上急減よりも受注急増をどう評価するか
今回の決算で最も重要なのは、売上高の減少と受注高の急増をどう解釈するかです。
ディーウェーブ・クオンタムの売上は、大型案件のタイミングに左右されやすい構造があります。そのため、四半期ごとの売上高は大きく変動しやすく、短期的な数字だけで事業の成長力を判断するのは難しい面があります。
一方で、受注高の急増は、将来の売上につながる可能性がある重要な先行指標です。特に、大学や大企業との大型契約は、同社の量子技術が実験段階から実用段階へ進みつつあることを示唆しています。
つまり、今回の決算は「売上が急減した悪い決算」と単純に見るのではなく、「短期売上は弱いが、将来売上の土台となる受注は大きく伸びた決算」と捉える必要があります。
アニーリングからゲートモデルへ広がる戦略
ディーウェーブ・クオンタムは、長年にわたり量子アニーリング技術に強みを持つ企業として知られてきました。量子アニーリングは、組み合わせ最適化など特定の問題に強みを持つ方式です。
しかし、同社はクアンタム・サーキッツの買収を通じて、超伝導ゲートモデル量子コンピューターの分野にも進出しています。ゲートモデルは、アルファベット(GOOGL)やIBM(IBM)なども開発を進める方式であり、より汎用的な量子計算の実現に向けた重要な技術です。
この動きは、ディーウェーブ・クオンタムが量子アニーリングだけに依存する企業から、複数の量子技術を扱う企業へと変化しようとしていることを示しています。特定の方式に絞るのではなく、量子コンピューティング市場全体の成長を取り込もうとする戦略です。
技術ロードマップが示す成長シナリオ
同社は、今年後半に超伝導ゲートモデル量子システムを市場に投入する計画を示しています。さらに、2028年末までに175物理量子ビット、今後4年以内に100の論理量子ビットをサポートするシステムへ拡張する目標も掲げています。
特に重要なのは、論理量子ビットです。量子コンピューターは外部環境の影響を受けやすく、エラーが発生しやすいという課題があります。論理量子ビットは、誤り訂正を組み込んだ量子ビットであり、実用的な量子計算に向けた重要な指標です。
もし同社がこのロードマップを計画通りに進めることができれば、量子コンピューティングの実用化において存在感を高める可能性があります。ただし、この分野は技術的な難易度が非常に高く、計画通りに進む保証はありません。
ハイリスク・ハイリターンの投資対象
ディーウェーブ・クオンタムは、量子コンピューティング市場の成長期待を背負う企業の一つです。受注高の急増、大企業との契約、ゲートモデルへの進出、明確な技術ロードマップは、同社の将来性を示す前向きな材料です。
一方で、リスクも大きいです。売上規模はまだ小さく、赤字は拡大しています。研究開発費の増加により、今後もキャッシュ消費が続く可能性があります。また、量子コンピューター市場そのものがまだ初期段階であり、商用化のスピードや収益化のタイミングには不透明感があります。
さらに、ゲートモデル量子コンピューターの分野では、アルファベットやIBMのような巨大企業も開発を進めています。ディーウェーブ・クオンタムが独自の強みを維持しながら競争に勝てるかどうかは、今後の重要な注目点です。
まとめ
今回のディーウェーブ・クオンタムの決算は、売上高の81%減少という数字だけを見ると厳しい内容です。しかし、受注高が3,340万ドルへ急増したことは、同社の将来性を考えるうえで重要な材料です。
同社は、量子アニーリングに強みを持つ企業から、ゲートモデルも含めた量子コンピューティング企業へと進化しようとしています。研究開発費の増加や赤字拡大は短期的な懸念材料ですが、同時に将来の商用化に向けた先行投資でもあります。
ディーウェーブ・クオンタムは、まだ安定した収益企業ではありません。むしろ、技術開発と市場開拓の成否によって評価が大きく変わるハイリスク・ハイリターンの銘柄です。
今後は、受注が実際の売上に転換されるか、ゲートモデル量子システムの投入が計画通りに進むか、そして大企業顧客との契約が継続的な収益基盤につながるかが焦点になります。量子コンピューティング市場の成長に注目する投資家にとって、ディーウェーブ・クオンタムは引き続き注視すべき企業の一つです。
情報ソース: Barron’s: “D-Wave Quantum Revenue Plunges 81%. Why a Bookings Surge Is the Real Story.” (By Mackenzie Tatananni, May 12, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事「量子コンピュータ株の明暗 イオンキュー、ディーウェーブ、リゲッティを比較」
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