2026年の株式市場では、ソフトウェアセクター全体が厳しい調整局面に入っています。代表的なソフトウェアETFであるiShares Expanded Tech-Software Sector ETF(IGV)は年初来で大きく下落しており、多くの投資家が成長株への見方を慎重にしています。
その一方で、相対的な強さを見せているのがサイバーセキュリティ関連です。サイバーセキュリティETFのiShares Cybersecurity and Tech ETF(IHAK)は、同じテクノロジー領域に属しながらも、IGVを大きく上回るパフォーマンスを示しています。ソフトウェア全体が売られる中で、なぜセキュリティ分野だけが選ばれているのか。この背景には、いま急速に普及が進む「エージェント型AI」の存在があります。
エージェント型AIの普及が企業システムの前提を変え始めた
近年のAI活用は、単なるチャットボットや文章作成支援の段階を超えつつあります。現在注目されているのは、自律的に複数の作業を実行するエージェント型AIです。これは、指示を受けて終わる従来型のAIではなく、社内システムやウェブ上を横断しながら、複数ステップのタスクを自動で進める仕組みです。
こうした流れが広がると、企業にとってのリスク構造は大きく変わります。AIが自律的に行動するということは、アクセスするシステム、取得するデータ、接続するアプリケーションが一気に増えるということでもあります。つまり、守るべき対象、いわゆるアタックサーフェスが急拡大するわけです。
これまでのセキュリティ対策は「人間の従業員がどの端末から、どのシステムに入るか」を中心に考えられてきました。しかし、今後はそこにAIエージェントという新たな主体が加わります。誰がアクセスしているのかだけでなく、どのAIが、何の目的で、どの権限を使って動いているのかを管理しなければならなくなります。この構造変化こそが、サイバーセキュリティ需要を押し上げる最大の理由です。
AI時代に強い企業の条件は「物理インフラ」と「統合力」
この新しい環境の中で強みを持つ企業には、いくつか共通点があります。特に重要なのは、エッジネットワークのような物理的なインフラを持っていること、そしてAI機能を既存プラットフォームに深く統合できていることです。
クラウドフレア(NET)はその代表例のひとつです。同社は世界各地に広がるサーバーネットワークを持ち、エッジ環境での高速処理に強みがあります。AIエージェントがリアルタイムで判断し、行動するには、遅延の少ないネットワーク基盤が不可欠です。単にAI関連サービスを提供するだけでなく、それを支える物理的なインフラまで押さえている点は大きな競争優位になります。エージェント型AIの普及が進むほど、このような分散型ネットワークの価値は高まりやすいと考えられます。
一方、クラウドストライク・ホールディングス(CRWD)は、脅威検知や対応の自動化をAIと組み合わせながら、既存のプラットフォーム内に機能を統合しています。ここで重要なのは、AIを単独の新商品として売るのではなく、顧客がすでに使っている基盤の中に自然に組み込んでいることです。これにより、顧客の利便性が高まるだけでなく、乗り換えコストも上がります。AI時代のセキュリティ市場では、単純な機能競争よりも、「既存基盤にどこまで深く入り込めるか」が勝負を分ける可能性があります。
見逃せないのがオクタのID管理という中核テーマ
もうひとつ注目したいのが、オクタ(OKTA)です。同社は直近決算で市場予想を上回る内容を示した一方、利益率に対する市場の期待をわずかに下回ったことで、株価の評価はなお慎重なままです。現在のバリュエーションは過去平均を大きく下回る水準にあり、市場はまだ強気に転じていません。
ただし、ここに投資妙味がある可能性があります。エージェント型AIが本格的に普及する世界では、ID管理の重要性が一段と高まるからです。人間だけでなく、AIエージェントにも適切な認証と権限管理が必要になります。どのAIに何を許可するのか、どこまでアクセスを認めるのかを制御できなければ、企業のセキュリティは簡単に脆弱になります。
オクタの主力分野であるID管理は、まさにこの課題の中心にあります。AI時代が進めば進むほど、ネットワーク防御や脅威検知と並んで、認証とアクセス管理の重要性も高まります。短期的には利益率やガイダンスが株価材料になりやすいものの、長期的には「AI時代に欠かせない基盤を握っているか」が企業価値を左右するはずです。その意味で、現在の低い評価は見直される余地を残していると考えられます。
サイバーセキュリティはAI時代の守りではなく成長テーマ
ソフトウェア株全体が厳しい中でも、サイバーセキュリティが相対的に強い理由は明確です。AIの進化が新しい効率化を生む一方で、新しいリスクも同時に生み出しているからです。企業がAIエージェントを本格活用するほど、ネットワーク、防御、認証、権限管理の重要性は増していきます。
つまり、サイバーセキュリティは単なる守りのセクターではありません。エージェント型AIという新しいインフラが広がる中で、その成長を支える基盤のひとつになりつつあります。ソフトウェア全体が逆風にさらされる局面でも、セキュリティ企業が選別的に評価されるのは、この構造的な追い風があるためです。今後のテクノロジー投資を考えるうえで、サイバーセキュリティは引き続き見逃せないテーマと言えます。
情報ソース: MarketWatch: “ These 4 cybersecurity stocks are Wall Street’s favorite AI-proof plays” (By Christine Ji, March 14, 2026)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事「AI時代の隠れ本命:サイバーセキュリティ株が2026年に急騰する4つの理由」
🎧この記事は音声でもお楽しみいただけます。AIホストによる会話形式で、わかりやすく、さらに深く解説しています。ぜひご活用ください👇