米国株投資において、株価上昇のドライバーは「企業の成長(増収増益)」だけではありません。成熟したハイテク企業にとって、実はそれ以上に強力な武器となり得るのが「自社株買い」です。
マーケットウォッチの最新データ(2025年11月28日公開)によると、S&P500企業の中でも、特定の企業群が猛烈な勢いで自社株を買い戻しており、株主利益を構造的に押し上げていることが明らかになりました。
今回は、この事実データを基に、アップル(AAPL)をはじめとする「株数を減らし続ける企業」の投資妙味と、その裏にある経営戦略を分析します。
1. 利益成長なきEPS上昇の「カラクリ」
まず、投資家として押さえておくべき「事実」があります。アップルは過去10年間で、実に7,087億ドル(約100兆円以上)を自社株買いに投じ、発行済み株式数を34.6%も減少させました。
これが何を意味するか、冷静に分析する必要があります。
記事中のデータによれば、34.6%の株式数削減は、「EPS(一株当たり利益)を53%押し上げる効果」があったと試算されています。これは、もし仮にアップルの純利益が10年間で1ドルも増えていなかったとしても、株主が手にする一株あたりの価値は1.5倍になっているということを示唆します。
多くの投資家は「次の決算で売上が伸びるか」に注目しがちですが、長期投資においては「発行済み株式数が減り続けているか」も同等以上に重要です。自社株買いは、企業の利益成長が鈍化した局面でも株価を下支えし、EPSを強制的に成長させる「安全装置」として機能するからです。
2. アップルの異質な戦略:AI設備投資 vs 株主還元
今回のデータで最も興味深い点は、アップルと他のハイテク大手(マグニフィセント・セブン等)との「資金の使い道」の違いです。
- 競合他社:巨額の資金を「AIインフラ構築(設備投資)」に充てている。
- アップル:直近4四半期だけで907億ドルを「自社株買い」に充てている。
市場では「アップルはAI投資に遅れているのではないか?」という懸念もあります。しかし、このデータを「資本配分の規律」という観点から分析すると、違った景色が見えてきます。
他社が将来の収益化が不透明なAIインフラに巨額マネーを投じている間、アップルは「確実にEPSが向上する自社株買い」に同規模の資金を投じています。これは、経営陣が自社のキャッシュフロー創出力に絶対的な自信を持っている証拠であり、不確実なAIブームの中で、既存株主に対する最も誠実なリターンを提供しているとも解釈できます。
3. 「隠れた還元王」を探せ:HPと半導体銘柄
アップル以外にも、過去10年で発行済み株式数を20%以上減らした「隠れた高還元銘柄」が存在します。記事でリストアップされた15社の中でも特に注目すべきは以下の2つのグループです。
① 発行株数を「ほぼ半減」させた企業
HP(HPQ)は過去10年で株式数を47.9%削減し、ジェイビル(JBL)は44.5%削減しています。企業の時価総額が変わらなくても、株数が半減すれば一株の価値は倍になります。これら成熟したハードウェア企業は、派手な成長ストーリーがなくとも、圧倒的なキャッシュフローを自社株買いに回すことで、投資家に報い続けている典型例です。
② 成長と還元を両立する半導体銘柄
リストにはアプライド・マテリアルズ(AMAT)やラムリサーチ(LRCX)、クアルコム(QCOM)が含まれています。これらは、AIや半導体サイクルの恩恵を受けながら、同時に30%近く株式数を減らしています。「成長投資」と「株主還元」を両立できているこれらの銘柄は、財務体質が極めて強固であることを示しており、長期保有における安心感は高いと言えます。
結論:投資家が注目すべき「数字」
今回のマーケットウォッチのデータから導き出せる結論は以下の通りです。
- EPS成長の質を見る:純利益の増加による成長なのか、自社株買いによる嵩上げなのかを見極めます。後者は不況時にも強いと言えます。
- アップルの底力:AI投資競争が激化する中で、あえて900億ドル規模の自社株買いを続けるアップルの姿勢は、財務的な余裕の表れです。
- 狙い目:株数を20%以上減らしている企業(特にアプライド・マテリアルズやラムリサーチなどの半導体関連)は、成長と還元のバランスが取れた「コア・ポートフォリオ」候補になり得ます。
米国株投資において、PL(損益計算書)の成長だけでなく、資本政策(自社株買い)にも目を向けることで、より堅実な資産形成が可能になります。
情報ソース: MarketWatch: “Apple and nine more tech companies that have treated their shareholders like gold” (By Philip van Doorn and Emily Bary, Published: Nov. 28, 2025)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
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