エヌビディアは「第2のエンロン」ではない――異例のメモが示唆する自信とリスク

出典:Barron’s “Nvidia Says It’s Not Enron in Private Memo Refuting Accounting Questions” (By Tae Kim, Updated Nov 24, 2025)

AI半導体の王者、エヌビディア(NVDA)を巡る議論が新たな局面を迎えています。バロンズの報道によると、エヌビディアのIR(インベスター・リレーションズ)チームは週末、ウォール街のアナリストに向けて7ページにわたる非公開メモを送付しました。

このメモは、著名投資家マイケル・バーリ氏を含む懐疑派からの指摘に真っ向から反論するものです。今回明らかになった事実情報を基に、エヌビディアの投資価値と将来性について考察します。

「エンロン比較」への強烈な拒絶反応

今回、最も注目すべき点は、エヌビディア側が自ら「エンロン」や「ワールドコム」といった過去の会計不正事件の名前を挙げ、それらとの決別を宣言したことです。

【事実情報】

  • エヌビディアはメモの中で、自社の状況はベンダーファイナンスやSPV(特別目的事業体)を悪用した過去の不正とは異なると明言しました。
  • 「負債の隠蔽や収益の水増しのためにSPVを使用していない」と断言しています。

【分析と考察】 通常、リーディングカンパニーが「我々は不正をしていない」とわざわざ詳細に説明するのは異例です。しかし、これを「必死の弁明」と捉えるか、「根拠なき噂の早期火消し」と捉えるかで、投資判断は分かれます。

個人的には、これは「経営の透明性に対する自信の表れ」であると分析します。SPV(特別目的事業体)の不使用を明言したことは、会計構造がシンプルであることを示唆しており、複雑なスキームで利益を操作する余地が少ないことを意味します。市場に燻る「利益の質」に対する疑念を、技術論ではなく会計のファクトで潰しにかかった動きは、長期的なガバナンスへの信頼性を高める可能性があります。

A100の稼働状況が示す「AI需要」の実体

次に、AIバブル論の根幹にある「過剰投資・過剰在庫」懸念についての反論です。

【事実情報】

  • エヌビディアは、顧客(大手テック企業)によるGPUの減価償却期間(4~6年)は、実社会での寿命と稼働パターンに基づいていると主張しました。
  • 2020年に発売された旧型GPU「A100」が、依然として高い稼働率と利益率を維持していると言及しています。

【分析と考察】 この事実は、エヌビディアの将来性を占う上で極めて重要なシグナルです。もし市場が「最新チップしか価値がない」状態であれば、旧型在庫は不良資産化し、顧客の減価償却負担は重くなります。

しかし、「5年前のチップ(A100)が今もフル稼働している」という事実は、AIコンピュート需要が供給を遥かに上回っている現実を裏付けています。これは、顧客企業が無理やり償却期間を延ばして利益を捻出しているのではなく、「物理的にハードウェアが陳腐化していない」ことを証明しています。AIインフラは一過性のブームではなく、数年にわたって価値を生み続ける資産として機能していると読み取れます。

自社株買いと「マイケル・バーリ」への対抗

映画『マネー・ショート』のモデルとなったマイケル・バーリ氏は、依然としてエヌビディアに対して弱気の姿勢を崩していません。

【事実情報】

  • バーリ氏はエヌビディアの自社株買いと株式報酬による希薄化を批判しました。
  • これに対しエヌビディアは、2018年以降の自社株買いは910億ドルであるとし、バーリ氏の試算(1,125億ドル)は税金を誤って含んでいると指摘しました。
  • バーリ氏はバロンズに対し、エヌビディアの反論には同意せず、自身の分析を維持すると回答しています。

【分析と考察】 この数値の食い違い(約200億ドルの差)は、RSU(譲渡制限付株式ユニット)に係る税金処理の解釈によるものです。 ここで重要なのは、エヌビディアがバーリ氏のSNS投稿に対して、即座に、かつ詳細な数値をもって反論したという「スピード感」です。

ショートセラー(空売り投資家)のナラティブが市場心理を冷やす前に、正確な数字で対抗するという姿勢は、現在の株価水準を維持しようとする経営陣の強い意志を感じさせます。バーリ氏が「将来のレポートで詳細を論じる」としているため、この論争は今後も続くリスク要因ですが、エヌビディア側が逃げずにデータで応戦している点は評価に値します。

結論:守りではなく、攻めのIR

今回の非公開メモの流出は、エヌビディアが単に半導体を作るだけの会社ではなく、資本市場との対話においても極めて戦略的であることを示しました。

  1. 会計の健全性(SPV不使用)
  2. 製品寿命の実証(A100の現役稼働)
  3. 正確な資本政策の提示(自社株買いの実数値)

これら3つのファクトは、同社のビジネスが「実需」に支えられたエコノミクスに基づいていることを強く示唆しています。短期的なボラティリティ(変動)は避けられませんが、ファンダメンタルズの観点からは、今回の反論は強気シナリオを補強する材料と言えます。


※本記事はバロンズの報道に基づく事実情報を元に構成した分析記事です。投資判断は自己責任で行ってください。

*過去記事はこちら  エヌビディアNVDA

🎧この記事は音声でもお楽しみいただけます。AIホストによる会話形式で、わかりやすく、さらに深く解説しています。ぜひご活用ください👇

最新情報をチェックしよう!