ビザとマスターカードが本気になった「ステーブルコイン」戦略:守りから攻めへの転換点

  • 2025年11月24日
  • 2025年11月24日
  • BS余話

米国決済の巨人であるビザ(V)マスターカード(MA)が、暗号資産(仮想通貨)、特に「ステーブルコイン」の領域で急速に事業を拡大しています。これまで「静観」とも取れた両社の動きですが、ここ数ヶ月で明らかにフェーズが変わりました。

米テック系メディア「The Information」の最新報道から読み取れる事実をベースに、両社の戦略転換と今後の投資価値について分析します。

1. 「中抜き」リスクに対する強烈なカウンター

両社の動きを加速させた最大の要因は、明確な危機感にあります。春頃にアマゾン(AMZN)やウォルマート(WMT)が独自のステーブルコイン発行を検討していると報じられ、既存の決済ネットワークが回避(中抜き)される懸念から両社の株価が下落する局面がありました。

しかし、直近の事実は両社がただ手をこまねいているわけではないことを示しています。

  • マスターカード:インフラ企業「ゼロハッシュ」の買収交渉(推定15億ドル規模)
  • ビザ:関連スタートアップへの積極投資と、自社ネットワークでのステーブルコイン取扱高の急増(前年比4倍)

マスターカードによる15億ドル規模の買収検討報道は、同社が「決済のレール」を自前で再構築しようとする強い意志の表れと考えられます。単なる提携にとどまらず、インフラそのものを所有しようとしています。

一方のビザも、すでに実際の決済ボリュームを4倍に伸ばしており、実需の取り込みに成功しています。 「アマゾンなどの小売巨人にネットワークを回避される」という守りの姿勢から、「自らがステーブルコイン決済の主要インフラになる」という攻めの姿勢へ転換しており、市場のディスラプション(破壊)に対する耐性が高まったと評価できます。

2. 「投機」ではなく「生活必需品」としての実需

ステーブルコインというと「暗号資産トレーダーのためのツール」というイメージが強いですが、ビザとマスターカードが見ている市場は全く異なります。記事が伝える情報からは、新興国における「ドルへのアクセス手段」という巨大な実需が浮かび上がります。

  • ラテンアメリカなどの新興国では、自国通貨が不安定なため、ドルペッグのステーブルコインへの需要が高い。
  • アルゼンチンのアプリ「レモン・キャッシュ」では、決済の70%がビザカード経由で行われている。

これは、先進国の「投機」需要とは異なる、より底堅い「生活インフラ」としての需要と言えます。現地の銀行がドル調達に苦しむ中、ビザやマスターカードのネットワークがステーブルコインを介して直接的なドル決済手段を提供することは、新興国市場における圧倒的なユーザー獲得につながります。

ショッピファイ(SHOP)での直接的なステーブルコイン決済(カードを通さない決済)の利用がまだ極めて限定的(約30万ドル程度)であるという事実は、「使い慣れたカードというインターフェース」の優位性が当面揺らがないことを示唆しています。

3. 次なる成長エンジン:「クリプト・クレジット」の可能性

今回の報道で最も注目すべき将来性のヒントは、ビザが「暗号資産クレジットカード」の研究を進めているという点です。

  • 現状の主流は「プリペイド」型(事前にチャージした分を使う)。
  • ビザはこれを「クレジット(信用供与)」型へ進化させることを「巨大な機会」と捉えている。

プリペイド型はあくまで「送金・決済」の代替ですが、クレジットカードは「信用創造」という金融の核心部分です。ブロックチェーン上で信用スコアを管理し、融資機能を持たせることができれば、従来の銀行がリーチできなかった層へ金融サービスを提供できる可能性があります。 これは、単なる決済手数料ビジネスから、より収益性の高いレンディングや金融サービスへの多角化を意味しており、両社の長期的なTAM(獲得可能な最大市場規模)を押し上げる要因となります。

結論:規制の整備とともに「本流」へ

7月に米国でステーブルコイン法案が可決されたことで、法的な不透明感が払拭され、機関投資家や大企業が参入しやすい環境が整いました。

ビザとマスターカードは、既存の銀行システムとの摩擦(カニバリズム)を慎重に避けつつも、確実に「次世代の決済インフラ」の主導権を握ろうとしています。アマゾンなどのテック企業による参入脅威を、自らのネットワークに取り込むことで成長機会に変えつつある両社の株価にとって、これらは強力なカタリスト(変動要因)になると考えられます。


出典(情報源) 本記事の分析は、以下の記事に含まれる事実情報に基づいています。 Title: Visa and Mastercard Are Moving Fast Into Stablecoins Media: The Information Date: Nov 21, 2025

※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。

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