米国株式市場において、AI関連銘柄への投資はもはやコンセンサスとなっています。しかし、多くの投資家が半導体メーカーや巨大IT企業の設備投資額に注目する一方で、その足元にある重大な供給リスクは見過ごされがちです。
今回は、最新の現地報道に基づき、米国経済が抱えるレアアースという構造的な弱点と、その中で唯一無二のポジションにあるMPマテリアルズ (MP)の重要性について考察します。
米国経済は「AI一本足打法」になっている
まず、現在の米国経済の成長構造を冷静に見つめる必要があります。
マーケットウォッチが11月21日付けの記事で引用したハーバード大学のジェイソン・ファーマン教授の試算によると、2025年上半期の米国GDP成長のなんと92%がAI支出に起因しているという事実があります。もしAI関連のデータセンター建設がなければ、成長率は年率換算でわずか0.1%にとどまっていたとのことです。
これは投資家にとって何を意味するのでしょうか。AIブームは終わらないという楽観論ではなく、AIが止まれば米国経済の成長自体が止まるという極めて脆弱な構造にあることを示唆しています。S&P500種指数 (SPX) をはじめとする米国株の上昇は、今やAIインフラへの継続的な投資に完全に依存しているのです。
チャイナ・リスクの実態と「MPマテリアルズ」の希少性
AIインフラの根幹をなす半導体製造や冷却サーバーには、レアアースが不可欠です。しかし、供給サイドの現実は厳しいものです。
中国は産出量の約70%、加工能力の約90%を支配しています。対する米国は、リサイクル率がわずか1%であり、2024年の生産量は4万5000トンまで回復したものの、中国の6分の1未満です。
この圧倒的なシェア格差の中で、米国内で孤軍奮闘しているのがMPマテリアルズです。かつて2002年に中国の低コスト攻勢により一度閉鎖に追い込まれた同社鉱山ですが、2017年に国防用途を視野に再開されました。
ここでの分析ポイントは、MPマテリアルズを単なる鉱山会社としてではなく、米国経済を守るための安全保障上のヘッジ銘柄として評価すべきだという点です。米国防総省が2027年までの需要確保を目標に掲げていることからも、同社の存続と成長は、一企業の利益を超えた国策的な必須事項と言えます。
政策転換と需要のシフト
トランプ大統領によるEV税控除の撤廃は、一見するとEVモーター用磁石を扱うレアアース企業にとって逆風に見えます。しかし、視点を変えればこれは需要の質的転換を意味します。
記事によれば、レアアースはAI分野(ディスクドライブ、冷却サーバー、半導体)および国防分野(レーダー、レーザー、衛星システム)で必須とされています。
EV需要が政策によって一時的に冷え込んだとしても、GDPの9割を支えるAIと、地政学リスクが高まる中での国防という、より緊急度と利益率の高い需要がMPマテリアルズを支える要因となります。
また、1995年にゼネラル・モーターズ (GM)傘下の磁石メーカーが中国に買収された過去の失敗(技術流出)を教訓に、米国政府は今後、国内サプライチェーンの保護を一層強化すると予想されます。これは同社にとって長期的な政治的な堀となります。
結論:ポートフォリオにおける「保険」としての役割
AIブームに乗るためにエヌビディア (NVDA)やマイクロソフト(MSFT)を買うのは王道です。しかし、そのAIインフラの首根っこを中国が押さえている以上、米中対立が激化した際のリスクは計り知れません。
MPマテリアルズへの投資は、単なるコモディティ投資ではありません。AI主導の米国GDP成長が、中国の資源支配によって止められないようにするための、米国側の唯一の対抗策への投資です。
米国のAI成長シナリオを信じるのであれば、そのアキレス腱を守るMPマテリアルズの動向にも、同等の注意を払う必要があります。
情報ソース: MarketWatch: “Opinion: China controls this key resource AI needs — threatening stocks and the U.S. economy” (By Kristina Hooper, Nov. 21, 2025)
※本記事は情報の提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。
*過去記事「米国×サウジ連携で浮上するMPマテリアルズの地政学的価値」
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