脱石油戦略を進める中東・湾岸諸国が、人工知能(AI)向けのデータセンター整備に本格的に乗り出しています。
AIの普及が加速する中で世界的に電力不足が深刻化するなか、エネルギー資源の豊富な地域が主導権を握りつつあります。
AI時代の最大の制約となる「電力不足」
米国をはじめとする主要国では、AI向けデータセンターの新設ペースが電力インフラ整備のスピードを大きく上回っています。
高性能GPUを大量に稼働させるには膨大な電力が必要で、電力確保が追いつかない都市圏ではデータセンターの運営コストも上昇しています。
こうした背景から、AIの競争は半導体やモデル開発だけでなく、「電力×送電×冷却」という重いインフラ勝負へと変わりつつあります。
中東が持つ「電力・インフラ」という2つの強み
湾岸産油国が注目される理由として、次の2点が挙げられます。
1. 圧倒的な電力供給力
化石燃料の埋蔵量が多い中東地域は、燃料調達のコスト面でも安定性でも優位です。
AI用データセンターは消費電力が非常に大きいため、この点は決定的な強みとなります。
2. 再生可能エネルギーのポテンシャル
太陽光や風力といった再エネ資源にも恵まれており、将来の長期的な電力確保にも向いています。
「大量電力」と「環境負荷」を両立させることがAIインフラの競争軸になりつつあるため、この組み合わせは有利に働きます。
UAEの大規模プロジェクトとサウジのAI戦略
中東では、具体的なAIインフラ整備がすでに動き出しています。
UAEの事例
AI関連企業が主導する巨大データセンター構想では、数ギガワット規模の電力を扱うキャンパス開発が進んでいます。
その中核となるクラスターの一部は、近い将来の稼働が予定されており、国際企業も協力しています。
サウジアラビアの事例
大規模なAI関連投資計画を打ち出し、新都市プロジェクトの一部にもAIインフラ構築を組み込む方針とされています。
冷却用水の確保、海水利用技術など、データセンター運営に不可欠な要素も設計段階から考慮されています。
「インフラの上流を押さえる」中東の戦略
欧米ではデータセンター建設に対して住民の反対が起こりやすく、計画が遅れがちです。一方、中東では土地利用のハードルが低く、大規模インフラの整備が迅速に進みます。
さらに、電力・冷却・送電といったAIの“縁の下の力持ち”となる部分を一体で整備できることは、大きな差別化ポイントです。
AI時代の新しい“資源”ともいえる「データ+電力」を囲い込むことで、国際競争力を高める狙いが透けて見えます。
投資家が注目すべき方向性
AI投資は半導体やクラウド企業に偏りがちですが、今後は次のテーマがより重要になります。
- 電力インフラ企業
- 送電網・変電設備
- 再生可能エネルギー
- データセンター向け冷却技術・水資源管理
- インフラ開発に強い国・地域
中東のように、電力供給能力とインフラ整備を一体で進められるエリアは、AI需要の増大を追い風に成長加速が期待されます。
まとめ
AI産業を支えるのは高度な計算能力だけではありません。
その裏側で稼働を支える電力、冷却、送電のインフラ全体が“次の主戦場”になりつつあります。
中東・湾岸諸国は、この領域で世界的な優位性を発揮する可能性が高い地域です。
AIの普及がさらに進むほど、「石油の時代」から「データと電力の時代」への移行は鮮明になります。
投資家としても、この構造変化は見逃せない流れとなりそうです。
*関連記事「AIブームの第2章:次に来るのは「電力インフラ株」の時代」
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