半導体市場で新たな買収の噂が浮上しています。ソフトバンクグループ(9984)が、米半導体メーカーのマーベル・テクノロジー(MRVL)を買収して、自社傘下のアーム(ARM)と統合する構想を検討していたと報じられました。報道を受けて、マーベル株は11月6日の米国市場で一時3.7%上昇し、アーム株やソフトバンク株も堅調に推移しました。
ソフトバンクの狙い:アームのAIチップ市場参入を後押し
ブルームバーグによると、ソフトバンクは数か月前にマーベルに対して買収の打診を行いましたが、条件面で折り合いがつかず交渉は停止しているようです。ただし、孫正義会長が引き続き大型ディールを模索していることから、再び交渉が再開される可能性も残されています。
この構想の背景には、アームがAI向けのカスタムチップ市場に本格参入しようとしている動きがあります。マーベルはデータセンターやAIトレーニング用チップの設計で強みを持ち、アマゾン・ドット・コム(AMZN)のAWS向け「Trainium」シリーズの共同開発にも関与しています。こうした技術資産をアームに取り込むことで、ソフトバンクはAIインフラの上流から下流までを一体化した事業モデルを構築できる可能性があります。
マーベルの技術力:SerDesと光通信IPが魅力
マーベルは、高速データ通信に欠かせないSerDes(シリアライザー/デシリアライザー)や光通信関連のIP(知的財産)で業界トップクラスの技術を持っています。米国みずほ証券のアナリスト、ジョーダン・クライン氏は「マーベルのSerDesと光学インターコネクト技術は、AIチップの競争で大きな武器になる」と指摘しています。
実際、エヌビディア(NVDA)やブロードコム(AVGO)、クアルコム(QCOM)といった大手半導体企業も、この分野への投資を加速させています。アームが独自のAIチップを開発するには、マーベルの持つネットワークおよび通信関連IPが欠かせないと見られています。
買収に立ちはだかる課題:規制と経営統合
一方で、この買収にはいくつかの課題もあります。まず、マーベルのマット・マーフィーCEOとアームのレネ・ハースCEOのどちらが統合後の事業を率いるかという経営面の調整です。また、米国の規制当局が日本企業による戦略的半導体資産の買収を承認するかどうかも不透明です。
ただし、トランプ大統領が日本の対米投資を歓迎していることから、政治的には買収が容認される可能性もあります。
株価への影響:AIテーマ再評価の追い風に
マーベル株は2025年に入り約16%下落しており、AI関連株の中では出遅れ感がありました。しかし、今回の買収報道により、短期的には株価の下値が切り上がる形となっています。アナリストの間では、12月2日に予定されている次回決算を控え、株価の回復を期待する声も出ています。
マーベルは7月期に過去最高の売上20億ドルを記録し、今期も増収・利益率改善を見込んでいます。マーフィーCEOは「カスタムAIチップ設計の案件は過去最多に達しており、10社以上の顧客と複数のプロジェクトを進めている」と述べています。
まとめ:AI半導体再編の引き金となる可能性
今回の報道が実際の買収につながるかは不明ですが、AI関連半導体の再編を促す動きとして注目されています。ソフトバンクがマーベルを傘下に収めれば、アームを中心とした新しいAIチップ勢力が誕生する可能性があり、エヌビディアやブロードコムに対抗する存在となるかもしれません。
AI時代の「次の一手」として、ソフトバンクの動向から目が離せません。
*過去記事はこちら マーベル・テクノロジー MRVL