人工知能(AI)への投資が急拡大する中で、アメリカの大手テック企業が「特別目的会社(SPV)」という聞き慣れない方法を使ってお金を集め始めています。これは、2008年の金融危機の時にも使われた仕組みで、ウォール街でも再び注目を集めています。
巨額のAI投資が企業の資金を圧迫
キャンター・フィッツジェラルドの試算によると、マイクロソフト(MSFT)、アルファベット(GOOGL)、アマゾン・ドット・コム(AMZN)、オラクル(ORCL)といった4つのクラウド大手が、来年には合計で年間5,200億ドル(約78兆円)ものお金をAIデータセンターに使う見込みです。
この「AIデータセンター」とは、AIを動かすための巨大なサーバー施設のことです。
ただし、これほどの投資を続けると、企業の手元資金(キャッシュフロー)がどんどん減ってしまいます。
バンク・オブ・アメリカの調査では、テック大手の投資額が、すでに営業で得た現金のほとんどを使い切っていると指摘されています。
メタが採用した「オフバランス資金調達」とは?
メタ・プラットフォームズ(META)は、この問題を解決するために「Beignet Investor LLC」という特別目的会社(SPV)を設立しました。
この会社が代わりに約300億ドル(約4.5兆円)を借り入れ、ルイジアナ州に新しいデータセンターを建設します。
つまり、「借金を自分の会社の帳簿に載せずにお金を集める」仕組みです。
一見便利ですが、中身が見えにくいリスクもあります。2008年のリーマンショックのときにも、同じような仕組みが過剰に使われ、金融システム全体を混乱させたことがありました。
エヌビディアを巻き込むxAIの大型プロジェクト
イーロン・マスク氏のAI企業xAIも、同様の仕組みを使って約200億ドル(約3兆円)を集めようとしています。
その資金でエヌビディア(NVDA)のAIチップを購入し、自社にリース(貸し戻し)するという仕組みです。
エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは「このプロジェクトに関われてうれしい」と語っています。
テック大手の資金繰りはタイトに
メタはすでに手元資金の約65%を設備投資に使っており、2026年にはさらに投資を増やす予定です。
一方でアルファベットは比較的余裕があり、資金の半分未満を投資に使っています。
そのため、米国やヨーロッパで合計220億ドル(約3.3兆円)の社債を発行することができました。
オラクルも同様に180億ドルの債券を発行し、いずれも投資家からの人気を集めました。
つまり、大手テック企業は「普通の借金(社債)」と「特別目的会社(SPV)」の両方を使って、うまく資金を集めているのです。
SPVのメリットとリスクを知っておこう
SPVを使うと、企業は特定のプロジェクトだけを独立させて管理できます。投資家にとっても「どのプロジェクトにお金を貸すか」を選びやすくなるというメリットがあります。
しかし問題は「中身が見えにくい」ことです。SPVを使うと借金の一部が表面上の数字から見えなくなるため、企業の本当のリスクが分かりにくくなります。
そのため、金融専門家の中には「AI投資ブームが加熱しすぎているのでは?」と懸念する声も出ています。
オープンAIも巨額投資で資金不足に
オープンAIはアマゾンと380億ドル(約5.7兆円)の契約を結び、エヌビディア製のチップを使ったクラウド環境を整えています。
同社は今後10年間で1.5兆ドル(約225兆円)もの投資を予定していますが、2030年の予想売上は1,750億ドル(約26兆円)にとどまる見込みです。
その差を埋めるために、オープンAIもSPVのような仕組みを使う可能性があると見られています。
投資家が注目する「見えないリスク」
AI分野への投資は、これからの成長を支える大きなテーマである一方で、企業がどのように資金を集め、どんなリスクを抱えているのかを理解することも大切です。
特に「SPV」のような新しい(あるいは古い)仕組みが再び広がる中、投資家は「何が見えにくくなっているのか」に目を向ける必要があります。
ウォール街では今、「AIブームの構造がどこまで持続できるのか」を慎重に見極めようとする動きが広がっています。
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