クアルコムはAI時代の覇者となれるか?エヌビディア・インテルとの本格対決へ

  • 2025年10月1日
  • 2025年10月1日
  • BS余話

AI時代の主役を目指す企業がひしめく中、スマートフォン向けチップで知られるクアルコム(QCOM)が新たな戦略を提示しています。同社は、PCやスマートフォンを中心に「デバイス上で完結するAI体験(オンデバイスAI)」を推進する姿勢を強めており、市場はその可能性と課題の両面から注目しています。

2025年9月末に行われたアナリスト向けイベントでは、PC向けのSnapdragon X2 Eliteとスマートフォン向けのSnapdragon 8 Gen 5を発表し、いずれもAI機能を前面に押し出しています。

「エコシステム・オブ・ユー」という構想

クアルコムCEOのクリスティアーノ・アモン氏は、個々のユーザーに最適化されたAI体験を提供する「エコシステム・オブ・ユー(The ecosystem of you)」という構想を紹介しました。この構想は、OSに代わるようなAIベースの操作環境を視野に入れており、ユーザーとデバイスの関係性を根本から変えることを目指しています。

この考え方は、単なるチップの販売を超え、ソフトウェアやサービス、デバイスの使用体験全体にまでビジネス領域を拡大するという意味合いを持ちます。

AI PC・スマホ市場でのポテンシャル

クアルコムは現在、Windows PC市場でのシェアは低水準ですが、今後AI対応PCが普及すれば新たな顧客獲得につながります。スマートフォン市場ではすでにAndroidのハイエンドセグメントで高いシェアを誇っており、AIによるリアルタイム翻訳や生成機能、パーソナライズなどの進化がさらなる需要を後押しすると見られます。

さらに、今後普及が期待されるAIウェアラブルやスマートグラスといった「次世代パーソナルデバイス」にも同社のチップが搭載される可能性が高いと見られています。

6G時代とエッジAIの収益化

無線通信分野においてクアルコムは引き続きリーダー的存在であり、6G時代に向けた「インテリジェントな通信モデム」への需要も意識されています。ネットワーク状況とAI処理の両方に適応できるモデムの実現は、収益機会の新たな柱となる可能性があります。

また、同社はクラウドとエッジの連携による「ハイブリッドAI」を重視しており、将来的にはデータセンター向けチップでもインテル(INTC)やエヌビディア(NVDA)との競争に挑む意向を示しています。

AI PCの新しいかたち:ヒューメインとの協業

イベントにはサウジ支援のAI企業ヒューメインのCEOも登壇し、Snapdragon搭載AI PCのビジョンを披露しました。ヒューメインはWindows上に独自のAIインターフェースを構築し、企業向けにサブスクリプション形式で提供する構想を紹介。これはマイクロソフト(MSFT)のSaaS戦略に挑戦する形ともなっており、クアルコムにとっても新たな収益モデルへの布石となる可能性があります。

今後、AIソフトの更新課金や開発者向けの有料エコシステムなど、シリコンに加えてサービスレイヤーでのマネタイズも視野に入れているようです。

最大の課題は「三正面作戦」

一方で、クアルコムが挑む市場は手強い相手が揃っています。インテルは2026年にAI対応のPanther Lakeチップを投入予定で、既存のOEMとの関係も強固です。エヌビディアはクラウドAIで支配的なポジションを維持し続けており、チップ性能だけでなくエコシステムによる囲い込みでも優位です。

クアルコムが現在のスマートフォン市場での優位を保ちつつ、PCとデータセンターという2つの新市場に同時進行で取り組むことは、リソース分散のリスクも伴います。

投資家に問われる「次のステージ」への信頼

クアルコムの試みは、単なる新製品サイクルの延長ではありません。PC市場でのシェア拡大を定着させ、スマートフォン分野のリーダーシップを次世代AIデバイスへと拡張し、6GとハイブリッドAIで新たな収益源を開拓できれば、株価の上昇余地は現在の市場予測以上にあるかもしれません。

クアルコムは、シリコン・ソフトウェア・体験のすべてを包含するAIプラットフォームとしての地位確立を目指しています。その成否は、投資家とOEMパートナーによる「長期目線での信頼」にかかっています。

*過去記事「クアルコム決算:主力部門の失速とAIグラスへの期待


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