米テック系メディアのThe Informationが2025年9月16日に報じた記事によると、アンソロピックやオープンAIといったAI開発企業が、AIを「バーチャル同僚」として育てる試みを本格化させています。彼らは、セールスフォースやZendesk、Cernerといった業務用アプリケーションを模倣した環境を作成し、AIモデルに実際のビジネスアプリの使い方を学ばせています。
この新しいアプローチの目的は、AIがホワイトカラーの仕事の一部を代行できるようになることです。たとえば、営業リードの抽出やカレンダーの設定、メール対応など、これまで人間が担ってきた複雑な作業もAIがこなせるようになると期待されています。
「強化学習ジム」で訓練されるAI
アンソロピックは今後1年間で、こうした「RL環境(強化学習ジム)」に最大10億ドルの投資を検討しているとされています。一方、オープンAIも同様の訓練環境を導入しており、データ関連コストとして2025年に10億ドル、2030年には80億ドルを見込んでいます。
RLジムでは、AIに業務アプリのコピー版を操作させるだけでなく、医療・プログラミング・金融など各分野の専門家が実演する様子を学ばせることも行われています。専門家の報酬は時給150~250ドルに達するケースもあり、コストは年々増加傾向にあります。
バーチャル同僚は収益源になるか?
オープンAIやアンソロピックは、こうした技術を活用し、AIが人間のようにアプリを操作する「エージェント型ソフトウェア」の開発を進めています。実現すれば、営業活動や事務処理などの業務をAIが自律的に行えるようになります。
例えば、セールスフォース上でリード情報を抽出し、LinkedInで候補者を調べ、GmailとCalendlyを使ってアポイントを設定し、最終的にセールスフォースでリード状況を更新する――こうした一連の流れをAIが自ら実行する日も遠くないと見られています。
タスクの正確性を確認するため、細かいステップに分解したルーブリック(評価基準)も用意されており、AIが実行した操作が適切だったかを判定する仕組みも整備されつつあります。
RL環境は新たなビジネスチャンスに
RL環境の構築と提供は、新たな市場としても注目されています。Turingをはじめ、ScaleやSurge、Invisible Technologiesといった企業が、業務アプリを模した環境や専門家との連携サービスを提供しています。
たとえばTuringでは、Airbnb、Zendesk、Excelなどを再現した1,000種類以上のジムを構築し、サンプルタスクや正解のチェック機能とともに販売しています。
このようなRL環境は、AIがより現実に近いタスクを学習できるという意味で「仮想世界の実務訓練所」とも言えます。
全経済活動が「RL化」する未来へ
記事の中では、オープンAIの幹部が「全経済がRLマシンになる」と語ったという指摘も紹介されています。これは、AIが業界ごとの実務データを学習し、あらゆる分野でバーチャルな労働者として機能する未来を示唆しています。
今後は、医学・法務・財務といった専門領域においても、AIがタスクを正確にこなすための「人間教師」が必要になり、さらに多くの現場ノウハウがAIに取り込まれていくことが予想されます。
おわりに
アンソロピックとオープンAIが描く「AI同僚」の未来像は、ただの夢物語ではなく、具体的な投資と技術開発によって急速に実現に向かっています。今後のAI開発競争は、モデルの規模や精度だけでなく、どれだけ「現実の仕事」をAIに学ばせられるかが重要な分岐点となるかもしれません。
🎧この記事は音声でもお楽しみいただけます。AIホストによる会話形式で、わかりやすく、さらに深く解説しています。ぜひご活用ください👇