顧客を奪え!AIで激化する企業向けソフトウェア乗り換え競争

2025年7月28日付の米メディア「The Information」は、人工知能(AI)がエンタープライズ向けソフトウェア市場に大きな変化をもたらしている現状を伝える記事を掲載しました。従来、システム移行は高コストかつ手間のかかるプロセスでしたが、AIの進化によって状況は一変しています。記事では、マイクロソフト(MSFT)やセールスフォース(CRM)、パランティア・テクノロジーズ(PLTR)、アマゾン(AMZN)などの大手テック企業が、AIの力を借りて互いの顧客を奪い合う現状が描かれています。

データ移行やアプリ書き換えをAIが自動化

これまで企業が使用する業務アプリケーションを他社製品へと乗り換えるには、膨大な量のデータ移行やアプリケーションの再構築が必要で、大きな障壁となっていました。しかし、最近ではAIが自動でコードを生成し、データ移行を短期間で行うツールが登場しています。米国防総省では、マイクロソフトやオープンAIが提供するAIモデルを使って、パランティアなどが運営する分析アプリからデータを抽出し、競合製品へ移行する実証実験が進められているとのことです。

各社が競合製品からの顧客獲得を狙う

記事によれば、マイクロソフトはDynamicsなどの自社アプリから、より高機能なAIアシスタントを提供し、セールスフォースの顧客を引き抜こうとしています。一方、パランティアは、自社のAI分析機能によって、マイクロソフトのPower BIやSAPの業務アプリの代替としての価値をアピールしています。実際に同社は、競合製品からの契約解除によってコスト削減が可能になると、価格交渉で提案しているといいます。

オープンソースへの移行も加速

トムソン・ロイターは、アマゾンが無償提供するAIツールを使ってWindows向けのアプリをLinux環境へ移植し、クラウド上での運用コストを大幅に削減したと明かしています。さらにサイバーセキュリティ企業のSonicWallも、旧来のMicrosoft SQL ServerをAIツールで自動変換し、オープンソースのデータベースに移行する計画を進めているとのことです。

企業の「レガシー脱却」を加速させるAIの力

C1社の最高情報責任者(CIO)であるバイラル・トリパティ氏は、「これまで世界を制したソフトウェアが、今はAIに食われ始めている」と表現しています。同社は、マイクロソフトのDynamicsからより自動化された営業アプリへと移行するために、ChatGPTなどを活用してコードの自動生成を進めていると語っています。

企業がレガシーなIT基盤から脱却するためには、多くの時間とコストが必要とされてきましたが、AIの登場によりその壁は急速に低くなっています。数か月かかっていた作業が半分の時間で済むようになり、企業はライセンス費用の削減やクラウドへの迅速な移行といった恩恵を享受し始めています。

AIがソフトウェアの構造を根本から変える

マイクロソフトのチャールズ・ラマンナ氏は、「今後2年以内に、多くのビジネスアプリはコードベースではなく、生成AIのインターフェースに置き換わる」と語っています。顧客はもはや複雑なアプリ群を使いこなす必要はなく、AIに「やりたいこと」を伝えるだけで済む世界が近づいているというビジョンです。

こうした動きは、マイクロソフト、セールスフォース、アマゾン、パランティアといった大手に限らず、スタートアップ各社にも波及しており、AIを軸とした企業ソフトウェア戦争は今後さらに激しさを増すと考えられます。

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