025年7月21日、米投資情報メディア「バロンズ」は、台湾積体電路製造(TSMC)が時価総額1兆ドルの大台を突破したことを報じました。AI需要の拡大を背景に、同社は再び世界の注目を集めています。
エヌビディアとアップルの需要が成長をけん引
TSMCの成長を支えているのは、エヌビディアやアップル、AMD、そしてマイクロソフトやアマゾンなどの巨大テック企業からの旺盛な受注です。特にAI分野では、TSMCが製造するエヌビディアの高性能チップが同社の業績を大きく押し上げています。直近の決算では、売上が前年同期比39%増、純利益が61%増と、AI投資ブームの恩恵が顕著に現れています。
トランプ政権の関税政策が今後のリスクに
一方で、2025年初頭にトランプ大統領が台湾からの輸入品に対して32%の関税を発表したことは、TSMCにも打撃となりました(のちに10%へ引き下げ)。その後、米国預託証券(ADR)は大きく反発し、年初来で22%の上昇を記録していますが、今後の政策動向次第では再びボラティリティが高まる可能性もあります。
TDカウエンのアナリストであるクリシュ・サンカー氏は、AIクラウド関連需要によってTSMCの2025年の売上成長率は30%に達すると予測しつつも、関税が今後の需要に影響を与えるリスクがあると指摘しています。
米国工場の拡張では関税回避に不十分な可能性も
TSMCは米アリゾナ州での生産拡大を進めていますが、AIチップの「高度なパッケージング」は依然として台湾で行われています。この工程を2028年までにアリゾナで内製化する計画もあるものの、最終的な組み立てが海外で行われる限り、米国での関税回避は難しい状況です。
このため、TSMCの顧客企業は今後、製品価格の引き上げや利益率の低下といった選択を迫られる可能性があります。それは、TSMC自身の売上や利益にも間接的な影響を及ぼすことが考えられます。
商務省の調査結果が今後のカギに
現在、米国商務省は、テクノロジー輸入における国家安全保障上の影響を調査しており、その結果次第では台湾製チップを含む広範な製品に追加関税が課される可能性があります。TSMCを取り巻く不透明感はしばらく続くことになりそうです。
*過去記事はこちら TSMC