2025年前半、AI半導体関連銘柄が市場の注目を集める中、マーベル・テクノロジー(MRVL)の株価は過去半年で40%下落しました。他のAI関連銘柄が回復基調を示す中でのこの動きは、投資家にとって意外なものでした。しかし、足元の調整を経て、むしろ今後の成長に対する期待が高まっています。
過度な期待とアマゾン依存が重荷に
2024年、マーベル株は約84%上昇し、2025年初頭には予想利益の70倍という非常に高いバリュエーションに達していました。AIデータセンター向けの通信チップや、クラウド大手向けのカスタムXPUチップ事業への成長期待がその背景にあります。
しかし、マーベルのカスタムAIチップ事業は主にアマゾン(AMZN)への依存が強く、2025年3月の決算説明会では、ライバルであるブロードコム(AVGO)がアマゾン向け案件を獲得しつつあるとの報道も出ました。CEOのマット・マーフィー氏は、アマゾンとの売上は今後も成長すると語りましたが、明確な新契約の発表がなかったことで、市場の懸念は拭いきれませんでした。
中国の台頭と貿易戦争が重なる
中国が開発した大規模AIモデル「ディープシーク」の登場は、AIインフラ投資の勢いにブレーキをかける要因になりました。加えて、トランプ大統領による新たな関税政策が半導体業界全体に逆風をもたらし、国際的なサプライチェーンに依存するマーベルも影響を受けました。
こうした複数の不安要素が重なり、マーベル株は2025年前半に大きく調整することとなったのです。
それでもマーベルが再評価される理由
現在のマーベル株は、予想利益の25倍程度までバリュエーションが調整されており、割高感は薄れています。さらに、J.P.モルガンのアナリストは7月、マーベルをAI半導体関連の有力銘柄として紹介。「過剰な懸念が株価に織り込まれており、今後の回復余地は大きい」と評価しました。
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また、7月11日の記事「エヌビディア依存の終焉?ビッグテックが選ぶ新たなAIチップ企業」では、ブロードコムとマーベルがAIチップ市場で激しく競争している構図を紹介しました。こうした競争環境は、マーベルにとっても新たな成長機会となる可能性があります。クラウド大手各社は、サプライチェーンのリスク分散のため、複数の半導体ベンダーを使い分ける傾向を強めており、マーベルのカスタマイズ技術や通信分野の強みが改めて注目されています。
市場予測の上方修正と今後のカタリスト
マーベル自身も、2028年におけるAIカスタムコンピュート市場の規模予測を、前年の430億ドルから550億ドルへと引き上げました。通信・スイッチング・ストレージなどを含むデータセンター市場全体では、940億ドルに達するとの見通しを示しています。
さらに今後、アマゾン以外のクラウド大手との契約獲得が発表されれば、株価回復の強力な材料になると考えられます。
まとめ
マーベル・テクノロジーの株価下落は、業績の悪化ではなく、過度な期待と競合懸念によるものです。現在は現実的な水準までバリュエーションが下がっており、今後の成長余地を冷静に見直す好機といえます。AI半導体市場で再び脚光を浴びる日は、そう遠くないかもしれません。
*過去記事はこちら マーベル・テクノロジー MRVL