エヌビディアの中国向けチップ販売再開が示す米中テック摩擦の転機

2025年7月15日、エヌビディア(NVDA)のH20チップが再び中国市場で販売可能となったというニュースが、米中テクノロジー競争と地政学リスクの見方に大きな影響を与えています。

中国市場での販売再開とその背景

エヌビディアはAI推論向けのH20チップについて、米国政府から中国販売再開の許可が得られるとの保証を受けたと発表しました。これは4月に施行された輸出制限の一部が緩和されたことを意味し、企業にとっては大きな前進です。

この動きは、ジェンスン・フアンCEOがトランプ大統領と会談し、その後中国訪問に踏み切った直後に発表されました。バロンズによると、米国財務長官スコット・ベッセント氏は「この緩和措置はジュネーブやロンドンでの交渉の中での駆け引きの一部だった」と述べています。

レアアースをめぐる中国の交渉力

米中関係では、レアアースや磁石など重要鉱物の供給制限も緊張の要因となっていました。中国政府はこれらの資源を戦略カードとして活用し、結果的に米国がチップ輸出規制を一部見直すという「譲歩」に至ったと専門家は指摘しています。

米地政学コンサルタント会社DGA-アルブライト・ストーンブリッジのポール・トリオロ氏は、「これは米中テック競争における大きな転換点だ」と評価しています。

米国内の議論と技術覇権の課題

AIと暗号資産政策を担当する政府高官デビッド・サックス氏ら一部では、厳格すぎる輸出規制がむしろ米国企業の競争力を削ぐ結果になると懸念されてきました。中国への販売が不可能になれば、エヌビディアなどの優位性が揺らぎ、中国国内での代替製品が台頭する恐れもあります。

このような状況を受け、かつて商務省に在籍していた戦略国際問題研究センター(CSIS)のナビン・ギリシャンカル氏は、「米国企業がグローバル市場で自由に製品を販売できることが、技術覇権を維持する最善の道だ」と語っています。

政治判断と企業ロビーの影響

今回の輸出規制緩和は、企業経営者による働きかけの結果ともいわれています。アメリカン・エンタープライズ研究所のデレク・シザーズ氏は、「説得力のあるCEOがロビー活動を行えば、トランプ大統領は話を聞く傾向がある」とコメントしています。

実際、エヌビディアの成功を背景にフアン氏がトランプ氏の注目を集めた可能性があると見られています。

米中関係の今後と市場の期待

今回の事例に加えて、中国当局がシノプシス(SNPS)とアンシス(ANSS)の合併を承認したこともあり、市場では米中関係の緊張緩和が進むのではないかという期待が高まっています。

バロンズは、8月12日に予定されている中国向け関税の再開についても延期される可能性があるとし、今後両国が「歩み寄り」の姿勢を取る可能性があると報じています。

まとめ

今回のエヌビディアの中国市場再進出は、単なる企業の販売戦略を超えて、米中間のパワーバランスやテクノロジー競争の在り方に一石を投じる出来事となりました。今後の動向次第では、AIチップ市場だけでなく、グローバルな半導体産業の構造にも影響を及ぼす可能性があります。

*過去記事はこちら  エヌビディアNVDA

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