AI時代における新しい資産運用の形:アドバイザーの役割はどう変わるのか

  • 2025年7月13日
  • 2025年7月13日
  • BS余話

2025年7月11日に米メディア「マーケットウォッチ」に掲載された記事では、人工知能(AI)の進化がファイナンシャル・アドバイザーに与える影響について深く掘り下げられています。記事の執筆者は、Vestigo Venturesのゼネラルパートナーであり元LPLファイナンシャルCEOのマーク・カサディ氏、そしてSavvy Wealthの共同創業者でCEOのリティク・マルホトラ氏です。

AIは「人間関係の代替」ではなく「増幅器」

一部のテック業界では「人間のアドバイザーは過去の遺物」と見なされがちです。ロボアドバイザーや自動化アルゴリズムが投資判断をすべてこなすという主張もあります。しかし、記事ではそうした考えに異を唱えています。

お金は極めて個人的かつ感情的なものであり、家族の資産承継やチャリティー目的の資金運用において、信頼できる人間の専門家は今後も必要とされると指摘されています。実際、AIはアドバイザーの仕事を奪うのではなく、むしろサポートすることで人間の関与をより深める方向に働くと強調されています。

AI導入によって業務効率が大幅に向上

マッキンゼーによると、AIを活用することでアドバイザーの業務効率は今後10年で10〜20%向上すると予想されています。日々の煩雑な事務作業に追われていた時間を、顧客との対話や戦略的提案に充てられるようになるのです。

すでに実用化されている具体的な例も紹介されています。

  • モルガン・スタンレー(MS)の「GPT-4アシスタント」では、16,000人以上のアドバイザーが数十年分のリサーチデータを自然言語で瞬時に検索できるようになり、導入率は98%を超えています。
  • バンク・オブ・アメリカ(BAC)のバーチャルバンカー「Erica」は、10億件以上の問い合わせに対応しており、深夜でもユーザーの資産管理を自動で支援しています。
  • フィデリティ傘下のCatchlightが開発した営業支援ツールは、見込み客をAIでスコアリングし、成約率の高い顧客を優先的に表示します。

「共感」と「戦略」が人間アドバイザーの強み

AIが提案や記録を下支えする中で、人間のアドバイザーには「家族経営の事業売却」や「多世代にわたる資産継承」など、複雑な人間関係を読み解く力や感情的なサポート力が求められると記事では論じています。AIはあくまで「共同操縦士」であり、最終的な判断は人間が行うべきだとしています。

今後の実現に向けて求められる3つの行動

記事の終盤では、AIを効果的に導入するために以下の3つのステークホルダーに行動が求められるとしています。

  1. 金融機関:派手なデモ機能ではなく、日常業務へのAI統合に注力し、人材再教育にも投資すること。
  2. 規制当局:SECやFINRAは実証的なAI利用に向けた「サンドボックス」や記録保持に関する明確なガイドラインを整備すること。
  3. 投資家:アドバイザーに対して技術活用の実態を積極的に問いかけ、効率化されていない場合は乗り換えを検討する姿勢が必要であること。

AIが変えるのは「作業」ではなく「対話」

現在、金融機関の8割近くがAIの導入を最優先事項と位置づけているといわれています。AIが事務作業を肩代わりしてくれることで、アドバイザーはより多くの顧客と向き合えるようになります。人間性に根ざした信頼こそが資産運用の本質であり、それを支えるテクノロジーの役割はこれからますます重要になっていくでしょう。


このように、AIの進化はファイナンシャル・アドバイザーにとって脅威ではなく、むしろ信頼関係を深化させるための強力なツールとなりつつあります。記事全体に共通しているのは、「AIが人間の代わりになるのではなく、人間をより人間らしくしてくれる存在になる」という前向きなメッセージです。

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