2025年7月8日、米国株式市場でモデルナ(MRNA)の株価が大きく上昇しました。背景には、トランプ大統領が署名した新たな税制法案や、ワクチン政策をめぐる訴訟、製薬業界への保護主義的な発言など、複数の重要な要因が絡んでいます。
モデルナに追い風となった新税制
注目すべきは、7月5日に成立した米国の大型税制・歳出法案です。この中には、「米国内での研究開発費の即時償却」を可能にする条項が盛り込まれており、企業のキャッシュフローに即効的な恩恵をもたらす設計となっています。
特にモデルナのように、コロナワクチンの需要減退によって売上が急減している企業にとっては、この税制改正が大きな助けとなる可能性があります。2023年第1四半期に18億6000万ドルだった同社の売上は、2025年第1四半期には94%減の1億800万ドルに落ち込んでいます。
会社側は2025年通期の売上見通しを15億〜25億ドルとしていますが、パンデミック期の2022年には190億ドルを記録しており、規模の縮小は明らかです。
株価は大幅上昇も、依然として厳しい局面
こうした政策の追い風を受け、モデルナの株価は7月8日に8.83%上昇し、終値は32.54ドルとなりました。これは今年最大級の1日あたり上昇率であり、3月5日以来の急騰です。
しかし、依然として年初来で株価は22%下落しており、過去1年では72%もの下落幅となっています。さらに、6月中旬時点で浮動株の18.6%が空売りされており、S&P500構成銘柄の中で2番目に空売り比率が高い銘柄です。投資家の警戒感は根強いといえそうです。
業界全体に広がる波紋
モデルナに限らず、製薬業界全体でも株価の動きが見られました。ノババックス(NVAX)は好決算を受けて6.5%上昇。コロナワクチンを主力とする同社もパンデミック後の業績回復が注目されています。
ファイザー(PFE)とバイオンテック(BNTX)も小幅ながら上昇しました。
一方で、政策面での不確実性も拡大しています。米国小児科学会など複数の医療団体が、保健福祉長官ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏を相手に連邦裁判所へ提訴。同氏がコロナワクチン接種スケジュールから妊婦や健康な子どもを除外したことを「違法かつ一方的」として、決定の撤回を求めています。
さらに、トランプ大統領は7月8日の閣議で「製薬製品の輸入に対して200%の関税を検討している」と発言。企業には「1年以内に米国内製造に切り替える猶予を与える」としており、製薬企業の供給体制に重大な影響を与える可能性があります。