「量子のエヌビディア」を目指すイオンキューが10億ドル調達、新たな商業化ステージへ

  • 2025年7月8日
  • 2025年7月8日
  • BS余話

米国の量子コンピューティング企業であるイオンキュー(IONQ)が、商業化に向けて大きな一歩を踏み出しました。2025年7月7日、同社は1株あたり55.49ドルで約10億ドルの株式発行を行い、約9億7850万ドルの純収益を得たと発表しました。これは直近の終値に対して25%ものプレミアムを付けた価格となっており、調達後の手元資金は約16億8000万ドルに増加します。

ベンチマーク社アナリストが目標株価を引き上げ

ベンチマークのアナリスト、デビッド・ウィリアムズ氏は、イオンキューの株価目標を従来の50ドルから55ドルに引き上げ、買い推奨を継続しました。同氏は、イオンキューが量子コンピューティングと量子ネットワーキングの両面でリーダーの地位を確立しつつあると評価しています。

CEOのニッコロ・デ・マシ氏は、「イオンキューは量子分野のエヌビディア(NVDA)を目指す」と発言しており、5月22日の株価急騰(終値で37%高)にもつながりました。

量子ネットワーキングで性能の限界を突破

イオンキューは、単一の量子コンピューターの性能限界を打破するために、量子ネットワーキングに注力しています。この技術により、複数の量子プロセッサーを接続し、分散処理によって安定性と性能の向上を図ることができます。

ウィリアムズ氏は、量子コンピューティングとネットワーキングを「共生的な存在」と位置付け、同社の戦略が顧客の幅広いニーズに応えるものだと評価しています。

多様な収益源と「エコシステム戦略」

イオンキューはハードウェア販売、量子コンピューティングのサービス提供、アプリケーション開発の3つを主要な収益源としています。なかでも、アプリケーション開発は今後の成長の鍵とされており、まずは計算処理かネットワーキングのいずれかで顧客を獲得し、長期的な関係を築くエコシステム形成が戦略の柱となっています。

クラシックな量子拡張ではなく「ネットワーク型」へ

デ・マシ氏は、量子コンピューターの性能を高めるには単に量子ビット(キュービット)を追加するだけでは不十分であり、ネットワーキングこそが有効なスケーリング手段であると述べています。同社は2026年までに256個の物理キュービット、2030年末までに200万個の物理キュービットおよび8万個の論理キュービットへの拡張を目指しています。

ウィリアムズ氏は、同社の技術ロードマップが他社と比較して非常に現実的かつ堅実であると強調しています。

軍との共同研究や創薬での成果も

イオンキューは、アメリカ国防総省と連携して素粒子物理学の研究に成功したほか、創薬分野ではアストラゼネカ(AZN)、アマゾン・ウェブ・サービス(AMZN)、エヌビディアと共同で行った研究で、従来手法に比べて大幅なスピード向上を実現しました。

これらの成果は、誤り耐性のあるシステムが未完成の段階でも、量子コンピューターがすでに実用的な価値を提供できることを示す重要なマイルストーンとされています。

同業他社との差別化と市場の反応

カンター・フィッツジェラルドのアナリスト、トロイ・ジェンセン氏も同日に「オーバーウェイト」の評価と45ドルの目標株価を再提示しました。同氏は、イオンキューが2035年までに量子ハードウェア、サービス、ソフトウェア市場の20%を獲得できるポジションにあると見ています。

リゲッティ・コンピューティング(RGTI)ディーウェーブ・クオンタム(QBTS)、クォンタム・コンピューティング(QUBT)などの同業他社も最近になって増資を実施しており、量子分野全体への投資家の関心が再び高まりつつある兆候といえます。特に今回のような大型の株式発行は、同社の成長戦略に対する市場の期待の高さを物語っています。

*過去記事「イオンキュー、英量子企業オックスフォード・イオニクスを買収 量子覇権へ前進

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