2025年7月2日、ソフトウェア大手のアドビ(ADBE)が久々に「売り」評価を受け、株価が大きく下落しました。ロスチャイルド&カンパニー・レッドバーンのアナリスト、オマール・シェイク氏は、同社の格付けを「中立」から「売り」へ引き下げ、目標株価も420ドルから280ドルに下方修正しました。この発表を受けてアドビの株価は一時4.3%下落し、375.42ドルとなりました。
生成AIの台頭でアドビの優位性が揺らぐ
アドビはこれまで、PhotoshopやAcrobatなどのクリエイティブおよびドキュメント管理ソフトを通じて、プロフェッショナルユーザーの制作プロセスを幅広く支えてきました。しかし、テキストから画像や動画を生成できる生成AIツールの急速な普及により、その立場が揺らいでいます。
シェイク氏は、グーグルの「Imagen」やオープンAIの動画生成モデル「Sora」などが、今やクリエイターのプロジェクト立ち上げ段階で選ばれるツールになっていると指摘しています。これにより、アドビが長年築いてきた価格決定力にも陰りが見えてきました。
フィグマ買収の失敗が重しに
アドビは2022年9月、デザインソフト企業フィグマの買収を発表しましたが、2023年12月には欧州連合および英国の規制により交渉が破談となりました。この買収はアドビにとって生成AI時代への転換点となるはずでした。
さらに、フィグマは2025年7月に新規株式公開(IPO)の申請を行い、アドビが同社を再び買収する可能性は完全に断たれました。この動きは、アドビのAI戦略における一層の不透明感を強めています。
それでも強気なウォール街
アドビの2025年の株価は、今回の下落を含め年初来で12%下落、過去12カ月では31%の下落となっています。しかし、ウォール街の多くのアナリストは依然としてアドビに強気です。ファクトセットの調査によると、アナリスト40人中26人が「買い」または「オーバーウェイト」の評価を維持しており、レッドバーンを除いては4月以降「売り」評価は出ていません。現在の平均目標株価は484.41ドルとなっています。
アドビの戦略転換は可能か
シェイク氏は、アドビが保有する潤沢なキャッシュフローを活用してAIへの戦略転換を図る余地があるとも述べています。例えば、画像生成モデルの買収や、AI編集機能を搭載した独自モデルの開発、AIを組み込んだワークフローツールの構築などが挙げられます。さらに、AIに特化した子会社のスピンオフや、事業売却といった大胆な選択肢も視野に入るかもしれません。
とはいえ、アドビはこれからいくつもの課題を乗り越えなければなりません。生成AI時代における競争の激化にどう対応するかが、今後の株価や企業価値に大きな影響を与えることになります。