2025年6月30日、アルファベット(GOOGL)は、バージニア州チェスターフィールド郡に建設予定の核融合発電所から、200メガワットの電力を購入すると発表しました。この発電所は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究に基づく技術を採用し、コモンウェルス・フュージョン・システムズが建設を計画しています。
アルファベットはすでに同社に出資しており、今回その出資をさらに拡大する方針です。投資額は明らかにされていませんが、コモンウェルスはこれまでに20億ドル超を調達しています。
同社のクリーンエネルギーおよび炭素削減部門の責任者であるマイケル・テレル氏は、「私たちにとって核融合は、世界を根本から変える可能性を持つ技術です」と語っています。
核融合とは? 核分裂との違いとその潜在力
現在稼働している原子力発電所はすべて、原子核を分裂させてエネルギーを得る「核分裂」を利用しています。これに対し、核融合は2つの原子核を結びつけてエネルギーを生み出す仕組みで、太陽のエネルギー源と同じ原理です。
国際原子力機関(IAEA)によれば、核融合は1キログラムの燃料あたりで、核分裂の約4倍、石油や石炭を燃焼させた場合の約400万倍のエネルギーを生み出せる可能性があります。
また、核融合は二酸化炭素を排出しないため、アルファベットが掲げる「2030年までに24時間365日、世界中の事業活動を炭素フリーの電力で賄う」という目標にも合致しています。
テック企業が相次いで参入 マイクロソフトやシェブロンも動く
コモンウェルス・フュージョン・システムズは、核融合分野で最も資金調達に成功している企業の一つです。2023年には、マイクロソフト(MSFT)が、ヘリオンという別の核融合企業と契約を結び、2028年までに50メガワットの電力を購入する計画を明らかにしました。ヘリオンはオープンAIのCEOであるサム・アルトマン氏が支援していることでも注目されています。
アルファベットは今回の出資強化に加えて、シェブロン(CVX)が支援するTAEテクノロジーズにも資金を提供しており、テック業界全体で核融合分野への関心が急速に高まっています。
実用化は現実味を帯びつつある
核融合は長年「実用化まであと20年」と言われ続けてきましたが、ここ数年でその見方が変わってきています。2022年には、カリフォルニアの国立研究所が核融合反応で「点火(ignition)」と呼ばれる状態に成功。これは、投入したエネルギーよりも多くのエネルギーを生成することに成功したという重要な成果です。
コモンウェルスのCEO、ボブ・マンガード氏は、2027年に自社でもこの点火を実現する計画を立てていると述べています。
ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスで原子力分野を担当するクリス・ガドムスキー氏は、「スーパーコンピュータ、3Dプリンティング、先端素材、強力な磁石などの技術革新により、核融合の実現に必要な環境が整いつつある」と語っています。
残る慎重論も
一方で、核融合の商業化にはまだ課題があるとの声も根強くあります。キャピタル・イノベーションズの最高投資責任者マイケル・アンダーヒル氏は、「科学者たちの話によれば、商業化には今後15〜30年はかかる」という見解を紹介しています。
それでも、アルファベットのテレル氏は、「核融合は長期的な投資ではあるが、近年ではその“長期”が以前ほど遠く感じられなくなってきている」と述べ、今こそ投資を進めるべきタイミングだとしています。
AI・EV時代のエネルギーを支える技術としての核融合
AIデータセンターや電気自動車の普及により、世界の電力需要は急速に拡大しています。こうした中、アルファベットのような巨大テック企業が核融合に本格的に投資を始めたことで、かつて夢物語とされた技術が、現実のインフラとして実用化に近づいています。
商業化にはまだ時間がかかるものの、世界のエネルギー構造を根底から変える技術として、核融合が真の転換点を迎えようとしています。