ウォール街を変えるAI革命:投資銀行業務はどう変わるのか

  • 2025年6月30日
  • 2025年6月30日
  • BS余話

2025年、米国の金融業界では生成AIの導入が加速しています。ゴールドマン・サックス(GS)モーリス・アンド・カンパニー(MC)モルガン・スタンレー(MS)など、名だたる大手投資銀行は、AIによる業務効率化を本格的に進めています。これは単なるテクノロジー導入にとどまらず、ウォール街の労働市場そのものを再定義する動きとも言えます。

ゴールドマン・サックスの「AIアシスタント」がIPO業務を再構築

ゴールドマン・サックスは、IPO(新規株式公開)業務におけるAI活用で先行しています。同社のデイビッド・ソロモンCEOによると、通常は6人のチームで2週間かけて作成するIPO目論見書を、AIであれば数分で95%まで自動生成できるといいます。残る5%の「人間による微調整」にこそ、今後の付加価値が集約される時代になりつつあります。

また、社内向けAIチャットツール「GS AIアシスタント」を全社に展開し、開発業務支援、ドキュメント作成、メールの草案生成、翻訳など幅広い業務に対応させています。さらに、投資銀行部門向けには「Banker Copilot」を開発中で、対話型インターフェースによるリサーチ補助を実現しています。

若手バンカーの役割はAIに代替されるのか

モーリスの次期CEOナヴィド・マムードザデガン氏は、アナリストや若手バンカーが従来担っていた作業の多くがAIにより効率化されると語っています。「ピラミッド構造はなくならないが、底辺は小さくなるかもしれない」と述べており、AIの導入が採用数の抑制につながる可能性を示唆しています。

ウォール街では現在、AIが人間の作業を代替できる範囲を見極める「発見フェーズ」にあり、情報収集やモデル作成、プレゼン資料作成など、従来は多くの人手を要したタスクが、より少人数でこなせるようになってきました。

AIによる業務自動化で「人手不要」の時代に?

米地方投資銀行ベアードのテッド・モートンソン氏は、「もはや人海戦術は必要ない」と述べています。同氏のチームでは、かつて10人以上で対応していたテック業界分析を、今ではAIの活用で2~3人で処理できるようになっています。AIはニュースや決算情報、プレスリリースの収集・整理・要約を自動化し、投資判断に必要な情報を効率的に提供できるようになっています。

また、金融モデルの作成やパワーポイント資料の作成も自動化されており、人間の役割は監修や判断に特化されつつあります。

投資判断もAIが支援:株式選定の新アプローチ

リベリオン・リサーチのCEOアレクサンダー・フライス氏は、生成AIが株式選定においても新たな価値を提供していると述べています。従来のスクリーニングは固定的な財務指標に依存していましたが、AIはより柔軟で定性的な条件も組み込むことが可能です。

例えば、「ポジティブな発言が多く、利益率も改善している企業を抽出」といった質問に対し、AIは過去の決算説明会の内容まで分析して銘柄候補を提示できます。これは特にミューチュアルファンドや長期保有を前提としたバリュー投資で有効とされています。

求められる人材像の変化:人間にしかできない価値とは

AIによって置き換えられる仕事が増える中で、どのような人材がウォール街に残るのでしょうか。モートンソン氏は、AI時代においても以下の3つのタイプの人材は不可欠であると述べています。

  1. 圧倒的な専門知識を持つ部門責任者
  2. 顧客との信頼関係を築ける営業担当
  3. データの解釈において独自の視点を持つベテラン人材

同氏によると、AI導入後は全体の人員が約30%減少すると見込まれていますが、その分、上記のような人材にはより高い報酬が支払われるようになります。

若手へのアドバイス:AIを使いこなすことが生き残る鍵

今後ウォール街で生き残るには、AIツールを熟知していることが前提となります。特にChatGPTをはじめとする生成AIや、Grok、Claude.aiなどのLLM(大規模言語モデル)の特性と限界を理解し、業務に応用できる能力が重視されます。

モルガン・スタンレーでも、生成AIの導入を全社的に進めており、AIが自動で下処理を行い、人間が価値ある業務に集中できる体制を整えつつあります。

さらに、JPモルガン・チェース(JPM)では、AI導入によって今後5年間で人員が約10%減少すると予測されています。

まとめ:AIで変わるウォール街の働き方

ウォール街の未来はすでに始まっています。AIによって多くの業務が効率化される一方で、「人間にしかできないこと」の重要性が浮き彫りになってきました。今後、金融業界で生き残るには、AIを単なる道具として使いこなすだけでなく、人間としての直感力、判断力、信頼関係の構築能力がより一層求められるようになります。若手にとっては厳しい時代に見えるかもしれませんが、それは「AIと共存する力」を持つ者にとって、むしろ大きなチャンスとも言えます。

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