近年の米テック企業の決算では、AIや関税、設備投資が注目を集めてきました。しかし、2025年第2四半期の決算では、「為替」が業績を大きく左右する可能性があります。特にTSMC(TSM)の動きは、為替リスクへの備えがこれまで以上に重要であることを示しています。
TSMC、巨額の為替ヘッジで対応
世界最大の半導体受託製造企業であるTSMCは、過去13か月間で3度にわたり、合計180億ドルの為替ヘッジを実施しました。直近では、急激な米ドルと台湾ドルの為替変動を受けて、100億ドルを割り当てています。
同社は、アップル(AAPL)やエヌビディア(NVDA)といった米国企業から米ドルで代金を受け取る一方、決算は新台湾ドルで行っています。これまではドル高により利益率が押し上げられていましたが、2025年に入ってからはドル安が進行し、このメリットが消えつつあります。
TSMCは年次報告書の中で、「米ドルが対台湾ドルで1%下落すると、営業利益率が0.4ポイント低下する」と明記しています。
為替ヘッジの手段と背景
TSMCは、ドル建て債券、為替オプション、先物、スワップなど、複数の手段を用いて為替リスクを分散させています。これらの取り組みは、急激なドル変動がもたらす業績への影響を抑えるためのものです。
2022年以降、米連邦準備制度理事会(FRB)が金利を引き上げたことで、米国債への投資需要が高まり、ドル高が続いていました。しかし、2025年に入り、その流れが反転しています。
背景には、トランプ大統領の外交方針の変化や、米中間の貿易赤字縮小への期待があります。NATOへの関与を弱める姿勢が、ドイツなど欧州諸国の防衛投資を促進し、内需拡大へとつながっています。また、米国の貿易赤字縮小によって、世界に供給されるドルが減り、結果的にドル安を招いています。
米テック企業に広がる影響
エヌビディアをはじめとする米テック企業の多くは、売上の多くを海外に依存しており、為替の影響を大きく受けます。なかでもアップルは、売上の64%を海外市場から得ており、為替変動が業績に直結します。
たとえば2023年度第1四半期には、急速なドル高により、アップルの売上成長は8ポイント分押し下げられました。メタ・プラットフォームズ(META)も同様に6ポイントのマイナス影響を受けています。
アップルの年次報告書では、「外国通貨がドルに対して下落すると、売上や利益のドル換算額が減少し、製品価格の引き上げを余儀なくされることで、需要が落ち込む可能性がある」と記されています。
ドル安が追い風に変わるか
2025年6月時点で、ドル指数(DXY)は前年から8%下落しており、アップルをはじめとする米多国籍企業にとっては、追い風が吹いている状況です。実際、アップルは5月1日の決算説明会で、「為替の逆風は徐々に緩和されつつある」と述べています。
その後もドル指数はさらに3%下がり、97.15と2022年2月以来の低水準となっています。
それにもかかわらず、アップルの今期売上に対する市場予想は下方修正されており、為替効果が十分に織り込まれていない可能性があります。このような状況では、決算でポジティブサプライズが出る可能性も考えられます。
今後の注目ポイント
為替リスクは、これまでテック企業の業績における「脇役」的な存在でした。しかし今、設備投資や生成AIに並ぶ主要な要因として浮上しています。今後は、企業の為替ヘッジ戦略や通貨動向が、決算により直接的に反映される時代となりそうです。
とくに、海外売上比率の高い企業への投資では、為替リスクを見過ごすことはできません。投資家にとっては、注目すべきテーマとなりつつあります。