エヌビディア(NVDA)は、生成AIの中核を担う企業として知られていますが、今後の成長分野としてロボティクス(ロボット技術)にも注力しています。ジェンスン・フアンCEOは「AIの次の大きな波はロボティクスだ」と述べ、開発リソースを本格的に投入しています。
ロボティクス向けプラットフォームの全体像
エヌビディアはロボット開発者に対して、ソフトウェア、ハードウェア、シミュレーション環境まで網羅する「Isaac」シリーズを中心にした技術群を提供しています。
まず「Isaac Sim」は仮想環境でロボットの動作検証を行う3Dシミュレーションで、同社の「Omniverse」上に構築されています。また、JetsonシリーズはエッジAI用の小型GPUコンピュータで、ロボットの「頭脳」としてリアルタイム推論処理を担います。
さらに「Isaac Cosmos」や人型ロボット向けの基盤モデル「Isaac GR00T」など新技術の投入も進んでおり、エヌビディアはロボット産業に必要なあらゆる構成要素を提供可能な企業として存在感を高めています。
拡大する市場とエヌビディアの立ち位置
ARKインベストやモルガン・スタンレーなどは、ロボティクス市場の将来的な爆発的成長を予測しています。モルガン・スタンレーはその最新レポートで「2050年までに米国だけで3兆ドル規模の市場が開ける」と予測しており、ロボット産業は将来的に自動車産業にも匹敵する巨大市場になるとの見方を示しました。
こうしたロボティクス隆盛のシナリオにおいて、エヌビディアは中核的な役割を果たすと見られています。モルガン・スタンレーの詳細レポート「The Humanoid 100」では、人型ロボットのバリューチェーンを担う100社がリストアップされましたが、その中でエヌビディアは「ロボットの頭脳(Brain)」に該当する企業としてトップに挙げられています
同レポートは、現在この分野では中国企業が多数を占めており、「テスラとエヌビディア以外には西側企業で有力な選択肢がほとんど見当たらない」と指摘しています。つまり、ロボット革命の恩恵を西側で享受しうる代表格がエヌビディアだという見方です。
アナリストによる評価と将来性
米大手証券のバンク・オブ・アメリカは、エヌビディアを最有力銘柄として継続的に「買い」推奨とし、同社のAIからロボティクスへの技術展開を高く評価しています。
ウェドブッシュ証券も「ロボティクス分野は今後1兆ドル規模の商機となる可能性がある」と述べており、AIに次ぐ新たな成長ドライバーとして位置付けています。
また、ARKインベストのETF「ARKQ」にも同社株が組み入れられており、同ファンドは人型ロボットの経済性が人間労働を上回る時代を見越して投資方針を明確にしています。
経営陣の戦略発言
2025年のGTCでフアンCEOは「人型ロボットの本格普及は数年以内に始まる」とし、特に工場など制約のある環境では早期実用化が見込まれると語りました。CESでも新たに「Omniverse Cosmos」を発表し、自動運転や産業ロボティクスの共通基盤としての展開を進めています。
エヌビディアは完成品ロボットの製造を目指すのではなく、業界全体に「知能と部品」を供給することでロボット革命のインフラになるという立ち位置を明確にしています。
実利用例と提携の拡大
同社の技術は既に倉庫物流、製造業、自動運転、医療などさまざまな分野で活用されています。たとえばアマゾン傘下の物流倉庫で稼働するロボットにはJetsonが搭載され、Agility RoboticsはIsaac Simによる仮想訓練を実施しています。
BMWやフォックスコンもIsaacプラットフォームを導入し、工場の自動化を推進しています。また、トヨタとの提携によるADAS開発、自動運転スタートアップAuroraによる車載AI活用など、活用範囲は急速に広がっています。
ユニバーサルロボット、Addverbなどのパートナー企業もJetsonやOmniverseを採用しており、エヌビディアのプラットフォームは業界の標準となりつつあります。
まとめ
エヌビディアは、AI革命で得た技術と資金力を活かし、ロボティクス分野の成長を次なる柱として据えています。ハードウェア、AIモデル、仮想シミュレーションという三位一体の戦略により、同社はロボット開発のエコシステム全体を支配するポジションを築きつつあります。
ロボティクス産業の急成長が現実味を帯びる中、同社の技術が果たす役割はますます重要になります。個人投資家にとっても、エヌビディアのロボット戦略は中長期的な注目テーマといえます。市場変動には注意が必要ですが、AIとロボットの融合による成長物語が続く限り、同社は引き続き注目される存在となりそうです。
*過去記事はこちら エヌビディアNVDA