イオンキュー、英量子企業オックスフォード・イオニクスを買収 量子覇権へ前進

  • 2025年6月10日
  • 2025年6月10日
  • BS余話

アメリカの量子コンピューティング企業イオンキュー(IONQ)は6月9日、イギリスのスタートアップであるオックスフォード・イオニクスを買収すると発表しました。買収総額は約10億7500万ドルで、そのうち約10億6500万ドルが普通株式、残りは現金で支払われる予定です。取引は2025年中に完了する見込みです。

この買収は、イオンキューが前週に量子インターコネクト企業であるライトシンクの買収を完了した直後に発表されました。

トラップドイオン型量子コンピュータを強化

オックスフォード・イオニクスは、イオンキューと同様に「トラップドイオン方式」の量子コンピュータを開発しています。これは電場を用いて荷電原子を制御する技術です。オックスフォード・イオニクスはイギリス本拠に加え、アメリカ・コロラド州にも拠点を構えています。

2025年初頭には、米国防高等研究計画局(DARPA)の量子ベンチマーキング・イニシアチブにも選定されており、イオンキューのほか、クァンティニューム、リゲッティ・コンピューティング(RGTI)などとともに先進研究に参加しています。

米英連携による次世代技術開発

今回の買収について、イオンキューは「次世代技術の開発に向けた米英の戦略的協力の一環」と説明しています。イオンキューは近年、国際展開を強化しており、前月にはスイスの量子暗号企業IDクアンティークの過半数株式も取得しました。

イオンキューの最高経営責任者ニッコロ・デ・マシ氏は今回の買収により、「2030年までに物理量子ビット200万個、論理量子ビット8万個のフォールトトレラント量子コンピュータを構築するというビジョンの実現が加速する」と述べています。

株価は上昇、研究成果も発表

この発表を受けて、イオンキューの株価は6月9日の米国市場で3%上昇し、40ドルあまりで取引されています(米国東部夏時間13:00現在)。

同日、イオンキューはアストラゼネカ、アマゾン・ドット・コム(AMZN)、エヌビディア(NVDA)と共同で行った研究プロジェクトの成果も発表しました。プロジェクトでは「鈴木-宮浦反応」における化学反応のシミュレーションをテーマに、イオンキューのForte量子プロセッサをアマゾンおよびエヌビディアのシステムと連携させたハイブリッド・ワークフローを構築しました。

この取り組みにより、シミュレーションにかかる時間は数か月から数日に短縮され、従来の実装と比べて20倍以上の時間短縮効果が得られたといいます。

量子コンピュータは既存技術を補完

アマゾンの量子クラウドサービス「Amazon Braket」の責任者エリック・ケスラー氏は、量子コンピュータは「既存の計算機を代替するのではなく、高性能計算の一部を加速する役割を担う」と語っています。

この見解は、イオンキューのデ・マシCEOのビジョンとも一致します。同氏は「スマートフォンやノートPCのすべてが量子技術で代替されるわけではない」としながらも、「現実的なレベルで量子技術の商用利用が始まっており、近い将来により広範な量子優位性、量子超越へと進化していく」と述べています。

「エヌビディアのような存在」を目指すイオンキュー

デ・マシCEOはバロンズ誌とのインタビューの中で、イオンキューが「量子コンピューティングにおけるエヌビディアのような存在になる」と強調しています。この発言は各種メディアで大きく取り上げられ、株価の36%以上の上昇につながりました。

また同氏は「量子コンピューティングはすでに今日の世界に存在しており、限定的ながら商業的価値を提供している」と語っています。「これから2〜3年の間に、誰もが“あっ、これは本当に来たぞ”と気づく瞬間が訪れる」とも付け加えました。

量子技術はもはや未来の夢ではなく、確実に現実の技術として歩みを進めています。

*過去記事「イオンキューが描く量子コンピューティングの未来:エヌビディアに続く道

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