2025年に入ってからアップル(AAPL)の株価は低迷が続いており、米証券会社ニーダムは新たに慎重な見方を示しています。6月4日、同社はアップル株の投資判断を「買い」から「ホールド」に格下げしました。その背景には、成長鈍化、競争激化、そして割高なバリュエーションに対する懸念があります。
成長の鈍化と割高な株価評価
現在、アップル株の株価収益率(PER)は26倍超と、ビッグテックの中でも高水準にあります。しかし、ニーダムのアナリストは、売上や利益率の成長が他の大手IT企業と比較して鈍い点を問題視しています。
アルファベット(GOOGL)、アマゾン・ドット・コム(AMZN)、メタ・プラットフォームズ(META)は、2025年3月期においてアップルと比べて2~3倍の売上成長率、3~12倍の利益率拡大を記録しています。このような状況を受けて、アップル株に与えられているプレミアムなバリュエーションはリスクにさらされていると指摘されています。
AI投資とイノベーションへの懸念
アップルは長年にわたり独自のエコシステムでユーザーを囲い込み、競争優位を維持してきました。しかし、ニーダムは同社が生成AI分野での取り組みにおいて他社に後れを取っていると評価しています。
アップルは、資本支出(Capex)が他のビッグテックより少なく、大規模言語モデル(LLM)や開発者向けAIエコシステムにおいても競争力が不足していると分析されました。これに対して、メタやアルファベットはスマートグラスなどの次世代デバイスに投資を加速しており、スマートフォンの需要を脅かす可能性も出てきています。
iPhoneとサービス収益に対する下方リスク
アップルの売上の約半分を占めるiPhoneと、好調だったサービス部門の成長も減速が懸念されています。世界のスマートフォン市場自体が減速傾向にあり、2025年5月にはIDCがスマートフォンの年間出荷成長予測を2.3%から0.6%へと引き下げました。
さらに、米司法省によるグーグルに対する反トラスト訴訟の影響も注目されています。アップルはサファリにおけるデフォルト検索エンジン契約で、年間約200億ドルの収益をグーグルから得ていますが、この契約が無効になるリスクがあります。
また、トランプ大統領が示唆した「中国以外で製造していないiPhoneに対する25%の関税」も、アップルにとって大きなリスクです。現在のところ、iPhoneの約85%は中国で製造されており、ニーダムはこの関税が実施されれば、アップルの1株利益が0.80ドル押し下げられる可能性があると試算しています。
中国市場の低迷とiPhone 17の課題
アップルは過去6四半期にわたり中国でのiPhone販売が減少しており、この傾向が続けばさらなる業績悪化が懸念されます。9月に発売されるとされるiPhone 17の新機能も、消費者に大きな買い替えインセンティブを与えるには不十分であると見られています。
ニーダムは、iPhoneの買い替えサイクルが株価の回復材料になる可能性を指摘しつつも、現時点での製品内容では消費者の需要を刺激するには力不足であると分析しています。
広告事業への進出が成長のカギに?
もしアップルが広告事業に本格参入し、収益の柱を多様化できれば、成長と利益率の改善が期待できるとニーダムは述べています。市場調査会社GroupMによると、デジタル広告市場は世界全体で8,400億ドル規模に達しており、アップルにとっても十分な規模です。
適正なエントリーポイントは?
現在のアップル株は203ドル付近で取引されていますが、ニーダムは170~180ドルの水準をより魅力的なエントリーポイントとして推奨しています。株価は格下げ当日にもかかわらず4日の米国市場で一時的に1%上昇しましたが、中長期の成長見通しについては慎重な姿勢が求められます。
*過去記事はこちら アップル AAPL