2025年、米国の電力業界では、天然ガス火力発電所の買収が活発化しています。データセンターやAI、電気自動車(EV)などの電力需要の急増を背景に、既存の発電所が再評価され、主要企業による大型買収が相次いでいます。本記事では、注目すべき4件の取引を中心に、天然ガス火力発電所の投資動向を解説します。
コンステレーションがカルパインを買収
2025年1月、ボルチモアに本社を置くコンステレーション・エナジー(CEG)は、ヒューストンに拠点を持つカルパインを約270億ドルで買収する契約を発表しました。カルパインは米国最大級の天然ガス火力発電会社であり、この取引によりコンステレーションは原子力と天然ガスの双方に強みを持つ電力大手へと進化します。
ビストラが全米で発電所を取得
テキサス州アービングに本社を構えるビストラ(VST)は、プライベートファームであるロータス・インフラストラクチャー・パートナーズから、全米各地にある2.6ギガワット分の天然ガス火力発電所を約19億ドルで取得する契約を締結しました。この発電容量には、PJMやニューイングランド、ニューヨーク、カリフォルニアといった電力需要の大きい地域の施設が含まれています。
NRGが13ギガワットの資産を取得
ヒューストンを拠点とするNRGエナジー(NRG)は、同じく民間企業であるLSパワーから13ギガワット分の天然ガス発電資産を約120億ドルで取得する契約を発表しました。この大規模取引によってNRGの発電能力は約2倍に増加し、特にテキサス州と北東部の供給体制が強化されます。併せて、商業施設向けのバーチャルパワープラントであるCPowerも買収し、需要管理の分野でも事業を拡大しています。
ブラックストーンがTXNMを買収
2025年5月、プライベート・エクイティ大手のブラックストーン・インフラストラクチャーは、ニューメキシコとテキサスで事業を展開するTXNMエナジーを総額115億ドルで買収することを発表しました。TXNMは主に送電・配電を担うユーティリティ企業ですが、いくつかの天然ガス発電所も所有しています。ブラックストーンはこの取引によって南西部での電力需要の成長に対応し、さらなる投資を進める方針です。
天然ガス発電の価値と見通し
天然ガス発電所はこれまで地味な存在でしたが、2022年以降の天然ガス価格の上昇と電力需要の増加により再評価されています。2021年から2024年にかけて米国の小売電気料金は21%上昇しており、供給側の設備強化が求められています。
新たに発電所を建設するには1ギガワットあたり15億〜30億ドルかかる一方で、既存施設は10億ドル未満で取得できるケースが多く、投資効率が非常に高い点が注目されています。
今後は、エヌビディア(NVDA)のようなAI企業によるデータセンターの増加、EVの普及などにより、米国全体の電力消費量が一層増加すると予想されています。こうした背景から、既存の天然ガス発電所への投資は、安定的で収益性の高い選択肢として今後も注目されると見られます。特に、再生可能エネルギーとのハイブリッド構成を取り入れることで、環境面・経済面双方のニーズに応える発電インフラが求められています。