米国と英国の通商合意が成立したことで、投資家の間では中国とのより包括的な貿易合意への期待が高まっています。このような動きが進めば、関税の影響を受けやすい消費関連企業にとって大きな追い風となる可能性があります。
J.P.モルガンのアナリスト、クリストファー・ホーヴァーズ氏は、関税の影響を受ける小売関連銘柄の中から、特に注目すべき7銘柄を選定しました。対象としたのは、自動車部品小売業のように関税によって恩恵を受ける企業や、ウォルマート(WMT)やコストコ(COST)のように価格決定力の高い企業を除いた銘柄です。
注目された7つの小売関連銘柄
ホーヴァーズ氏は、以下の4つの観点から評価を行いました。
- 中国製品への依存度
- 関税を価格転嫁するために必要な価格上昇率(粗利益ベース)
- 株価バリュエーションと過去の水準との比較
- 株価に織り込まれている予想利益
これらの基準で評価し、注目されたのが次の7社です。
- ベスト・バイ(BBY)
- ウェイフェア(W)
- RH(RH)
- マテル(MAT)
- アカデミー・スポーツ・アンド・アウトドアーズ(ASO)
- ディックス・スポーティング・グッズ(DKS)
- フロア・アンド・デコア・ホールディングス(FND)
企業の概要と注目ポイント
ベスト・バイ(BBY)は、米国最大級の家電量販チェーンで、パソコンやテレビ、スマートフォンなどの家電製品を中心に販売しています。幅広い品揃えとサービスで長期的に安定した需要が見込まれています。
ウェイフェア(W)は、家具や家庭用品を中心としたオンライン専業の小売企業です。在庫を持たないビジネスモデルが特徴で、サプライチェーンの柔軟性に優れています。
RH(RH)は、高級家具やインテリアを手掛ける企業で、洗練されたライフスタイルブランドとして富裕層を中心に強い支持を受けています。独自性の高い製品ラインとショールーム型の店舗が特徴です。
マテル(MAT)は、「バービー人形」や「ホットウィール」などで知られる世界有数の玩具メーカーで、その多くを中国で製造しています。関税が業績に大きく影響するため、貿易動向の恩恵を直接受けやすい企業です。
アカデミー・スポーツ・アンド・アウトドアーズ(ASO)は、スポーツ用品やアウトドア関連商品を販売するチェーンで、米南部を中心に展開しています。比較的ディスカウント色が強く、家族層の支持が厚いのが特徴です。
ディックス・スポーティング・グッズ(DKS)は、全米最大のスポーツ用品チェーンで、アパレルやフィットネス器具、アウトドア用品など幅広い商品を提供しています。ブランドとの独占販売契約も強みです。
フロア・アンド・デコア・ホールディングス(FND)は、床材やタイルなどの住宅リフォーム用品を専門に扱う企業で、DIYニーズの高まりに対応した商品構成が支持を集めています。競合の多い業界において高い成長率を誇ります。
特に注目されるのはフロア・アンド・デコアとウェイフェア
中でもフロア・アンド・デコアは、価格決定力が高く、住宅市場が底打ち傾向にある中で小規模競合の混乱から市場シェアを拡大する可能性が高いとされています。また、ウェイフェアは在庫を持たないビジネスモデルであることが市場に正しく評価されておらず、リスクオフ局面では過小評価されがちですが、潜在力があると指摘されています。
マテルやRHも巻き返しの余地あり
マテルは玩具の多くを中国に依存しており、株価にはすでに関税の最悪ケースが織り込まれている状況です。一部予測では利益がコンセンサス比で30%減少するとの見方もあり、逆に合意が成立すれば上昇余地が広がります。
RH、アカデミー・スポーツ、ディックス・スポーティング・グッズも、それぞれ約20%の利益減を織り込んだ株価水準にあり、回復が期待されます。
ベスト・バイは慎重な見通しを保つも長期的には有望
ベスト・バイは長期的な勝者と見られている一方で、常に慎重なガイダンスを出す傾向があり、特に中国との関係に対する明確な見通しが必要な状況です。
株価は全体的に低迷、今後の交渉進展がカギ
今年に入ってからこれらの銘柄の株価は大きく下落しています。RHは年初来で50%以上の下落、アカデミー・スポーツは30%以上、ウェイフェアとフロア・アンド・デコアも約25%下げています。ベスト・バイは約20%、ディックスは16%の下落となっています。唯一、マテルは2%の下落にとどまっており、相対的には健闘しています。
また、小売関連全体を表すETFであるSPDR S&PリテールETF(XRT)は年初来で11%以上、消費裁量セクターに連動するConsumer Discretionary Select Sector SPDR ETF(XLY)も約10%の下落を記録しています。
貿易合意が小売株に与えるインパクト
前回の関税問題の際、多くの企業はサプライチェーンの多様化を進めましたが、それでもなお中国からの調達が大きな割合を占めています。したがって、米中間の通商合意が成立すれば、価格転嫁の必要性が減少し、需要を下支えする材料となる可能性があります。
これらの小売関連銘柄は、通商交渉の進展によって今後のパフォーマンスが大きく左右される注目の投資先と言えそうです。