イーライ・リリー(LLY)は5月1日の米国市場開始前に発表した2025年第1四半期決算において、調整後1株利益が3.34ドルとなり、アナリスト予想の3.26ドルを上回りました。売上高も前年同期比で45%増の127億ドルと好調でしたが、株式市場の反応は冷ややかで、株価は1日朝の米国市場で10.2%下落し、807.2ドルを記録しました。
背景には、同社の肥満治療薬「ゼップバウンド」と「マウンジャロ」が属するインクレチン類似薬市場での競争激化があります。
ノボ・ノルディスクの反撃、CVS経由で「ウェゴビー」の優遇措置
今週、ノボ・ノルディスク(NVO)が「ウェゴビー」をCVSヘルス(CVS)の薬剤給付管理(PBM)大手の優遇薬とする契約を締結しました。この契約により、多くの処方薬プランで「ウェゴビー」へのアクセスが容易かつ安価になります。
イーライ・リリーのCEOであるデイビッド・リックス氏はこの動きについて、「患者がより優れた薬にアクセスしづらくなる」とし、「ゼップバウンドはウェゴビーを上回る」と述べています。実際、両者を比較した臨床試験ではゼップバウンドが有効性・耐容性の両面で優位という結果が出ています。
売上高見通し据え置きも利益見通しは下方修正
イーライ・リリーは2025年の通期売上高見通しを580億ドルから610億ドルの範囲で据え置きましたが、1株利益の見通しを22.50〜24.00ドルから20.78〜22.28ドルに引き下げました。これは1月にがん治療薬開発企業スコーピオン・セラピューティクスの買収に伴う影響とされています。
CFOのルーカス・モンタルセ氏は「年間で売上を32%増加させる計画に変更はなく、今後四半期ごとに平均30億ドルの追加売上が必要」とコメントしています。
肥満治療市場での支配的地位を維持
ゼップバウンドとマウンジャロの売上は、それぞれ23億ドルと38億ドルで、ファクトセット調べのアナリスト予想とほぼ一致しました。現在、イーライ・リリーは米国のインクレチン類似薬市場で53.3%のシェアを保有しており、同市場では他の大手製薬企業を大きくリードしています。
また、4月には経口肥満治療薬「オルフォグリプロン」の良好な臨床試験結果により株価が14%上昇し、市場からの期待も高まっています。
トランプ大統領の薬価関税政策への懸念
一方で、トランプ大統領が提唱する医薬品への関税政策も投資家心理に影を落としています。ライバルのファイザー(PFE)のCEOは「楽観的」としていますが、イーライ・リリーのリックス氏は「現時点での楽観視は早計」とし、関税の影響が広範に及ぶ可能性に懸念を示しました。
とはいえ、同氏は「既に多くの製薬会社が米国国内への投資拡大を表明しており、サプライチェーンの国内回帰は進行中」と語っています。
競争が激化する中でも優位性を保つイーライ・リリー
ゴールドマン・サックスのアナリストによれば、「イーライ・リリーは製造能力や割引戦略、パイプラインの先行性において“要塞”のような地位を確立しており、ライバルが逆転するのは難しい」との見解です。
一方でノボ・ノルディスクも今週、オンライン診療プラットフォームと提携し、「ウェゴビー」を現金払いの患者向けに大幅割引で提供開始。イーライ・リリーも既に同様の取組みを進めており、競争はさらに激化しています。
イーライ・リリーは依然として肥満治療市場において強固な立場を保っており、長期的にも有利なポジションを確保している状況です。今後の動向にも注目が集まります。