台湾のTSMC(TSM)とオランダのASMLホールディング(ASML)の四半期決算は、米国市場ではあまり注目されない傾向がありますが、実際には両社とも世界の半導体サプライチェーンの中核を担っています。ASMLは極端紫外線(EUV)リソグラフィ装置の製造で知られており、その価格は最大で2億2000万ユーロ(約2億5000万ドル)に達します。
この装置の主要顧客であるTSMCは、アップル(AAPL)、エヌビディア(NVDA)、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)などのハイテク企業のチップを製造しています。さらに、ASMLはマイクロン・テクノロジー(MU)をはじめとするメモリチップ企業にも装置を供給しています。
AI需要と関税政策が今後の見通しを左右
両社の2025年第1四半期決算では、AI関連の需要急増が半導体ビジネスに与える影響が強調されました。しかし同時に、アメリカの関税政策の変更によって2025年以降の業績予測には大きな不確実性が生じている点も明らかにされました。
ASMLのクリストフ・フーケ最高経営責任者(CEO)は決算説明会の冒頭で、AIの好調な需要により生産能力拡大が進めば年間ガイダンスの上限に達する可能性があると述べました。一方で、多くの顧客にとっては不確実性が依然として高く、下限寄りの実績になる可能性もあるとしています。
TSMCの積極的な設備投資
AI関連の需要に支えられ、TSMCの設備投資は顕著な増加を見せています。2024年第4四半期には前四半期比で91%もの増加を記録し、2025年の年間設備投資額は380億ドル〜420億ドルのガイダンスが再確認されました。
ただし、2022年には400億ドル〜440億ドルという強気のガイダンスを出しながらも、年間を通してはその水準に達しなかった過去もあります。
米国の関税政策がもたらすリスク
TSMCにとって、米国の新たな関税政策による影響はまだ顧客基盤全体には波及していませんが、同社は政策変更による需要への影響を警戒し続けています。
ASMLもまた、第2四半期の売上総利益率のガイダンスに通常より幅を持たせ、不確実性の高さを示しました。ロジャー・ダッセン最高財務責任者(CFO)は、当初は追加の関税コストを自社で吸収する可能性があるとしつつ、新規注文の増加に伴って価格を引き上げる方針を示しています。
中国市場におけるASMLの成長と課題
ASMLは近年、中国市場からの売上が大きく増加しており、2025年時点では売上の約4分の1を中国が占める見通しです。これは2022年の14%からの大幅な増加です。
欧米政府がASMLの最先端装置の中国への販売を禁止している状況下でのこの成長は、特に注目されています。中国の顧客が国内製造能力を強化していることが背景にあります。
ASMLはまた、中国での低技術チップ製造装置への需要が高まっている点を指摘しており、これはテキサス・インスツルメンツ(TXN)、STマイクロエレクトロニクス(STM)、オン・セミコンダクター(ON)などの非中国系メーカーにとって競争リスクとなり得ます。過去30年、中国企業は急速に生産能力を拡大し、国内需要を上回った在庫を低価格で輸出するという動きを繰り返してきました。これはチップ業界全体にとって、今後のリスクとなりそうです。
まとめ:米国株投資家が注目すべき動向
今回のTSMCとASMLの決算からは、AI需要の強さと、それに伴う設備投資の増加が明らかになりました。しかし同時に、米国の関税政策や中国の製造力強化といった外部要因が、半導体市場に大きな影響を与えるリスクとして浮上しています。
テクノロジー株に投資している投資家にとっては、こうしたグローバルな視点で供給チェーンの変化を捉えることが、今後の投資判断において極めて重要となります。
*過去記事「TSMC、2025年に向けた成長見通しを維持。業績は市場予想を上回る」
「ASMLホールディング、売上ガイダンスが市場予想に届かず株価下落」