米国製薬大手のファイザー(PFE)は、肥満治療薬として開発中だった経口薬「ダヌグリプロン(danuglipron)」の開発を中止すると発表しました。ある被験者に健康被害が発生したことが理由です。この発表により、同社株は4月14日の米国市場で一時的に下落しましたが、その後上昇に転じています。
注射薬に対抗する経口GLP-1薬として期待されたダヌグリプロン
ダヌグリプロンは、イーライ・リリー(LLY)やノボ・ノルディスク(NVO)が開発したGLP-1受容体作動薬に似たメカニズムを持つ経口薬です。これらの企業が手がける肥満治療薬「ゼップバウンド」や「ウゴービ」は注射によって投与されますが、ダヌグリプロンは錠剤ということで高い注目を集めていました。
しかし、ファイザーによれば、ある被験者が薬剤性肝障害の可能性がある症状を示し、治療を中止したところ症状が改善したということです。
肥満治療分野での立ち位置が揺らぐファイザー
ファイザーの最高科学責任者クリス・ボショフ氏は、「この決定は残念であるが、心血管および代謝疾患分野は依然として満たされていない医療ニーズが多い」と述べています。
一方で、投資家の間ではファイザーの肥満治療分野における後退が懸念されています。バーンスタインのアナリスト、コートニー・ブリーン氏は、「これによりファイザーはロシュなどの競合他社に後れを取った形になり、今後はM&Aやライセンス契約によりパイプラインの強化を図ることが予想される」とコメントしています。
他の経口肥満治療薬に注目が集まる
ファイザーは、現在中期臨床試験段階にある別の経口肥満治療薬の開発を継続する予定であり、2026年初頭に結果の公表を予定しています。ただし、今回のダヌグリプロンの中止により、投資家の期待値は低下すると見られています。
現在、アメリカ食品医薬品局(FDA)によって承認されている経口の肥満治療薬は存在しません。このため、ダヌグリプロンには注射薬に代わる選択肢としての期待が集まっていました。経口薬であれば、患者の需要が高まりやすく、保管や流通の面でも優位性があります。
他社株は上昇、肥満治療市場への影響
ファイザーの発表を受け、イーライ・リリーおよびノボ・ノルディスクのアメリカ上場株はそれぞれ3.38%および2.45%上昇しました。さらに、経口肥満治療薬を開発中のバイキング・セラピューティクス(VKTX)の株価も10.42%上昇しています。
イーライ・リリーは現在、経口の肥満治療薬候補「オルフォグリプロン」の開発を進めており、バーンスタインのアナリストは「ファイザーの肝機能に関する見解を受け、オルフォグリプロンへのリスクが高まるとは考えていない」としています。
ファイザー株の低迷続く
ファイザーの株価は年初来で17%下落しており、2021年12月のピーク時からは64%の下落となっています。新型コロナウイルス関連の特需が落ち着いた今、同社は新たな成長分野の開拓が急務となっています。
肥満治療市場は今後も成長が見込まれる分野であり、経口薬の開発競争が激化する中、ファイザーの動向から目が離せません。